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僕がまだ種だった頃、この畑にはモグラがいた。 彼との出会いは衝撃的だったから、よく覚えている。 何せ目覚めた暗闇の中、僕は彼にいきなり怒られたんだ。 「おい、危ないじゃんか。オイラの縄張りだぞ」 このとき僕には、彼の鼻しか見えていなかった。自我が芽生えてすぐ、僕は生まれた喜びよりも先に死の恐怖を理解した。 「ご、ごめんなさい」 わけも分からず謝っていた。怖かった。 気絶しそうなほど緊張しているのが彼に伝わればいいのに。そうしたら優しくしてくれるかもしれないと、そんなことを思っていた。 ――早くどこかへ行ってくれ。 祈っても、彼は離れてくれなかった。 僕の全身に覆い被さっている鼻が、目の前でヒクヒクと(うごめ)いている。 「くさい、人間くさいぞ。お前、埋められたんだろ」 「わかんない。僕は今、目覚めたばかりなんだ」 「生まれたてかよ! もったいねー。もうちょい早ければ、自分が顔を出す場所を見れたってのに」
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