5人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
2
僕がまだ種だった頃、この畑にはモグラがいた。
彼との出会いは衝撃的だったから、よく覚えている。
何せ目覚めた暗闇の中、僕は彼にいきなり怒られたんだ。
「おい、危ないじゃんか。オイラの縄張りだぞ」
このとき僕には、彼の鼻しか見えていなかった。自我が芽生えてすぐ、僕は生まれた喜びよりも先に死の恐怖を理解した。
「ご、ごめんなさい」
わけも分からず謝っていた。怖かった。
気絶しそうなほど緊張しているのが彼に伝わればいいのに。そうしたら優しくしてくれるかもしれないと、そんなことを思っていた。
――早くどこかへ行ってくれ。
祈っても、彼は離れてくれなかった。
僕の全身に覆い被さっている鼻が、目の前でヒクヒクと蠢いている。
「くさい、人間くさいぞ。お前、埋められたんだろ」
「わかんない。僕は今、目覚めたばかりなんだ」
「生まれたてかよ! もったいねー。もうちょい早ければ、自分が顔を出す場所を見れたってのに」
最初のコメントを投稿しよう!