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鼻が遠ざかり、何も見えなくなった。
どうやら、僕に命の危険はないらしい。
恐怖が消えると、好奇心が湧いてきた。
僕の頭の中は「なぜ」「どうして」でいっぱいだ。
「僕は、どこかに行かなくちゃいけないの?」
「いや、行きたくても行けないね。ただ上に伸びるだけさ。お前は花の種なんだから」
「そっか、僕は花になるんだね。花って、何をすればいいのかな?」
「何も。花なんてのは気楽なもんさ。空を眺めて、風に寝転がってればいいんだからな」
「君も一緒にいてくれる?」
「オイラは駄目なんだ。呑気に日向ぼっこなんてしようもんなら、人間に見つかっちまう」
「それって、怖い生き物なの?」
「別に。ただ、やっかいなだけさ」
ザクザクと音がして、僕の体に砂粒がかかった。
ペチペチと細かい粒が当たるのは、あまりいい気分ではない。
「何をしてるの?」
返事はなかった。
僕は暗闇で耳を澄ます。
ザクザク、ザクザク――。
音は次第に小さくなってゆき、完全に消えてしまった。
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