【紀友則】

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それは四月も初旬の土曜日のこと。 急に押し寄せた陽気の所為か、 その週の始めから桜は急にその花を綻ばせ始めた。 週末となり散る兆しを見せつつあるとは言え、 その絢爛と言わんばかりの美しさ、 そして見事さには矢張り目を見張らされるばかりだ。 黒々としたその幹と、やや桃色を帯びたその白い花弁は絶妙なコントラストを為しているようであり、 一種の劇的さもまた醸しているようにも思える。 明日、日曜日の天気予報は雨だった。 それも恐らくは相当に激しい雨。 所謂『桜流し』。 そのお陰で、今宵のうちに大方の桜は散り果ててしまうのだろう。 と言うわけで、おそらく今日、土曜日は今年の桜の見納めだ。 それ故、桜でも見に行かないかと女を誘ったという訳だ。 女としても大いに乗り気で、桜の名所と言われる、 今、我々が訪れているこの古刹に行こうよと提案してきた。 なのに、いざ連れて来たら『呪い』などと宣う訳だ。 まぁ、何かにつけネガティブな言葉を弄するのはいつものことなのだが。 そして、残念ながら何を以て桜の花を『呪い』と宣うのかに関し、興味も無い訳ではないので、その理由を尋ねてみた訳だ。
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