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偽善者
チェスターコートを羽織り、身を縮こませる。先程の食事で身体が温まったかと思えば、外気に晒され、じわじわと身体が冷えていく。
気がつけばもう師走。冬もこれから本番を迎え、辺りは気が早いのか赤と緑の電飾をよく見かけるようになった。
長山大樹は身体をブルっと震わせ、駐車場で律仁と渉太を見送ると斜め後ろで突っ立っている男に目線を向ける。
細身で闇に溶け込む囲むかのように上から下まで黒で統一された服装。視線が合うとあから様にプイッと顔を背けてられてしまったので、余程俺とは関わりたくないだと嫌でも悟る。
今日は親友の麻倉律仁に誘われて食事をすることになった
大学の後輩で律仁の恋人でもある早坂渉太もいるとだけ聞かされていたので、てっきり三人かと思っていた。
しかし、待ち合わせのお店の個室に入ると藤咲尚弥もいた事に、大樹は内心動揺していた。
過去の出来事が原因で自分が藤咲から嫌われているのは分かっていたことなので、彼とどう距離を保てばいいのか分からなかった。
食事中も話をしたのは渉太と律仁ばかりで、隣の藤咲に顔を向けることすら出来ず、大学で久しぶりに会ったときも、声は掛けたが、睨まれては直ぐに逃げられてしまった。
「藤咲、送ろうか?」
視線が合わない藤咲にそう持ちかけてみたが、「偽善者」と吐き捨てたように悪態をつかれては、道路の脇に止まっているタクシーにそそくさと向かっていく。
いつかの渉太に話したような藤咲の気持ちに気づいてあげられなかったなんて綺麗事だ。
過去の過ちを無しにして藤咲と昔のようになんては思ってない。しかし、嫌われて当然のことをしておいて許されたいなんて甘えている自分もいた。ただの自己満足に過ぎないかもしれないが、あの時の自分の弱さで傷つけてしまった藤咲に償いたい気持ちはあった。
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