SS 触れ合えるのであれば·····

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「雲のように見えるだろ?あれ全部ひとつひとつの星だって知ってるか?恒星が光の帯を作って…」 「あれが雲じゃないことくらい僕でも分かるに決まってるだろっ。銀河の中心なんだろ。で、あれとあれがアルタイルとベガだろっ」 「正解、よく知ってたな」 大樹の長くなりそうな蘊蓄(うんちく)を遮るように尚弥が知るありったけの知識を彼に振る舞うと感心したように頷いていた。それはその通りで、教えてくれたのは大樹だ。幼き日に天体の本を持参してきては、レッスンで宏明を待っている間に熱心に教えてくれていたことを実物を目の当たりにして思い出した。 「あんたが教えてくれたんだろ」 「そうだったっけ…すまない、覚えてない」 「最低…」 膝を抱き、顔を埋めてぼそりと呟くと大樹が「だよなー…」と苦笑を浮かべる。尚弥も直前まで忘れていたし、落胆するほどのことでもない。 大樹にを落ち込ませる気はなかったのだが、なかなか素直で優しい返しなどできない尚弥はどう返していいか分からず、いつもと同じように突き返す。 「そういえばお前にもう一つがっかりさせて悪かったな」 空をじっと眺めながら哀愁漂う顔でそう呟いた大樹に首を傾げると、「ヴァイオリン」と補足してきたのでほんの数週間前に次に夜空を観に行くことがあったらその下でヴァイオリンを弾いて僕を楽しませてと約束していたことを思い出す。 あの後、知り合いのヴァイオリン職人を大樹に紹介し新調してもらったが 完成には一か月以上かかる。あれは尚弥なりの言葉の綾みたいなもので左程気にしていなかった。大樹も道中ではそんな申し訳なさそうな様子もなかったし 、彼のことだから忘れてることもあり得ると踏んでいたが、彼は約束のことをしっかり覚えていては大分気にしていたらしい。 「お前と約束したことは何が何でも破りたくないんだよ」 「そ、それは仕方ないだろっ。新調には一か月以上は掛かるし。次…次のときでもいい…」
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