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横浜駅に到着して、代金を全額自分持ちで支払うと一緒にタクシーから降りる。
タクシーから降りて早々に歩き出す藤咲のことを呼びながらも追いかけるように後をつけた。当の本人も後をつけられているのを気づいているのか、段々と足早になる黒くて細い後ろ姿。
どうにかして引き留めて、藤咲とゆっくり話がしたい。絶妙に詰めることの出来ない、届きそうで届かない距離にもどかしさを感じながらも追い続けていると駅から暫く歩いた歩道橋で、藤咲が踵を返してきた。
半ば鬱陶しそうに眉を顰めては此方を睨んでくる。
「いつまで着いてくる気ですか。あんた僕を送ったら戻るって言ってませんでしたっけ?」
「あーいや、藤咲と話がしたくて」
険悪なムードに圧倒され、大樹自身、吃りながらも答えると「いまさら?」と言って冷笑してきた。藤咲の言う通り今更の話だ。
何年も前の話を蒸し返して謝罪するのは遅すぎる。あの時の藤咲には俺しか頼れる人がいなかったのに俺は見て見ぬ振りをした。
藤咲を助けるよりも自分を守ることを優先してしまったその事実は変わらなくて、藤咲が俺を憎むのに充分な理由。
「渉太に言われたから?それとも浅倉さんの受け売りですか?」
藤咲のことから目を背けていたくせに過去からも逃げずに立ち向かう渉太を見て感化されたのは事実なだけに、藤咲の言葉が胸にチクリと刺さる。
今まで臭いものに蓋をするように、胸の何処かで突っかかっていた藤咲のことを気にしないようにしていた。
その代わり自分で勝手に報いを受けるように、後輩が困っていたら助けてあげるような頼りになる先輩を築いてきたし、自分が大切にしたい人には真剣に向き合ってきた。
「別にそういうわけじゃ……でも、お前に謝りたくて……あの時は助けてあげられなくて…すまなかった」
言葉でなんて幾らでも言えると思われて当然。簡単に許しては貰えないかもしれないが、ちゃんと藤咲と向き合えたらという気持ちを込めて頭をさげる。
「もう、いいんで。金輪際、僕の前に現れないでもらえますか。では」
しかし、そう簡単に藤咲が自分に心を開いてくれる訳もなく、拒絶宣言をされ、これ以上、追いかける気なれなかった。
藤咲がこうなったのも全て自分のせい……。
大樹は下げていた頭を起こすと離れていく藤咲の姿を只今眺めてはその場で立ち尽くす。
渉太や律仁の真似事をしたって所詮、二人程根気よく藤咲と向き合う熱量は持てなかった。
一層のこと仲直りなどしようとせず、自分は彼と関わらない方が彼の為のような気すらしていた。
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