7人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
さて、栄依子が玄関を奇麗に掃き終わり
お昼も回ったころ
藤平は尾久の家に戻りました。
静岡、富士の実家の用事がすんで
朝一番の東海道線に乗ったのです。
藤平の実家は
茶畑と養鰻場を経営していましたので
大抵、深蒸し茶と
ウナギのかば焼きをお土産にもらってくるのです。
それをアテにして、家ではワカが
ご飯を炊いて家族で待ち構えていたのでした。
「ただいま!」
藤平はハンチングと外套をワカに手渡しながら
取り巻いた子供たちに言いました。
「今日はなぁ、ウナギは無しだよ
近頃、ウナギはすべて軍の買い上げで
家族の分もないんだそうだ。
代わりにお土産買ってきたぞ」
そう言って、ワカに
杉の香りがする大きな経木
(キョウギ・生木の薄板で作った簡易包装の箱)を
4,5個も渡しました。
駿河湾名物の釜揚げシラスと桜エビでした。
最初のコメントを投稿しよう!