尾久の栄依子ちゃんシリーズ お父さんの『おみやげ話』

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藤平 「女の人は、身重な体で  早く歩けないから  峠を越えないうちに日が暮れちまったんだな」 登志子 「ミオモってなあに?」 豊子 「お腹に赤ちゃんがいたってこと」 藤平 「すっかりあたりが暗くなって  戻ろうかどうしようかウロウロしてるうちに  山賊が出てきて  この若い女の人を  バッサリ!殺しちゃったんだよ」 藤平は、手刀で宙を切ってそう言った。 胡坐の中にちょこんと入っていた祥子が 怖そうに口をへの字に曲げて 藤平を見上げました。 「ところが  この女の人は実はまだ生きてて  虫の息で子供を産んで  近くにあった大きな岩に赤ん坊をのせ  とうとう、命が尽きた」 子供たちは飴をなめるのも忘れ しーーんと黙りました。 「女の人は 赤ん坊が心配で 死んでも死にきれなくてなあ とうとう、魂がその岩に取り付いた。 夜明けごろだ  通りがかりのお坊さんが 女のしくしく泣く声が聞こえるってんで探したら 岩の辺りから聞こえる。 見ると岩の上には、 生まれたばかりの赤ん坊が泣いてて 岩の脇には女の人が死んでいたんだそうだ」 祥子は、怖いのが我慢できずに とうとうベソをかきはじめました。 「そのお坊さんがいい人でな 赤ん坊を自分のお寺に連れて帰って お乳の代わりに水飴を上げて育てたんだ その水飴が、ホレ、そいつだよ」 子供たちはいっせいに 手に持っている水飴を見ました。
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