<3・Wedding>

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『正直、ラナさんはもっとこう……お堅い女性かと思っていたんだけど。思ったより仲良くやっていけそうな気がするよ。あれは絶対、庶民にも人気のコント番組をひとしきり楽しんでいると見たね』 『その様子だと、セシルも結構テレビを見るのがお好きなのですね。ラジオやテレビが普及してから長いのに、未だにテレビは庶民の俗物だと好まない貴族も多いというのに』 『見るよ。面白いものは何でも取り入れる主義なんだ。ましてや……テレビやラジオは情報が早い。テレビは映像があるからより一層イメージもしやすい。僕の仕事は情報の有無が鍵を握るからね。そういうものは頻繁に見ておくに限る。まあ……コント番組が好きなのは、単なる僕の趣味なんだけど!』 『ふふっ』  人間、誰しも表の顔と裏の顔がある。それは何も悪い意味だけではなく、表で取り繕っている顔の裏に、思いがけない良い一面やユーモラスな一面を隠していることもあるという意味でもある。  それは、ドナにとってのセシルも例外ではない。 『……今だから言うけれど。わたくし、最初セシルと逢った時……絶対この人とはうまくやっていけないと思ったんです。わたくしの意見を真正面から否定したのもそうですけれど、何より……もうすぐ十二歳にもなろうという貴族の長子が、あのように簡単に涙を流すなんて情けないと思ってしまって。まあ、わたくしも泣きわめいたのですから、人のことをどうこうは言えないのですけれど』  泣き虫で、臆病。余計なことばかり気にして、本質が見えていないダメ男――最初はそう思っていた。  もし、あの時姉や両親が自分を甘やかすばかりの人間だったら。可愛い妹、可愛い娘の言うことを何もかも肯定し、ドナの言葉をうのみにしてセシルを糾弾するようなタイプの人間達であったなら。きっと自分は、セシルの本質ときちんと向き合おうとはしなかったし――きっとあそこで自分達の関係は途絶えてしまっていたことだろう。  もしそうなっていたなら、自分はとてつもなく勿体ないことをしてしまっていたことになる。この人の本当の優しさや魅力に気づかないまま、大人になってしまっていたかもしれないのだから。
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