<3・Wedding>

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『“誰かの立場を思いやって、誰かの気持ちになってものを考えなさい。誰かの心に寄り添って、隣人のごとく愛しなさい。それから……自分がされて嫌なことは、誰かにしないようにしなさい”。そんなこと、幼い子供の頃には先生や両親に習うこと。それなのに、それができない人間は大人でさえ少なくないものです。……それなのに、貴方はあの年で、きちんと誰かに寄り添える優しさを持っていた。生態系の頂点である人間であり、その人間の中でも選ばれた貴族という身分であるならばどれほど好き勝手にしても怒られないはず……そんな身勝手な考えを持っていたわたくしとは、何もかも違っていた』  他の生き物も、人間と同じだけの命の重さがある。  そして貴族以外の庶民たちも、けして貴族に劣るような存在ではない。むしろ、彼らがいるからこそ貴族は今を支えられている。彼らの方が偉いと言っても過言ではない。一体何をどう教育を受けたら、多くの貴族の人間達さえ見失っているようなその考えに行きつくことができるのだろうか? 『あの時。……物怖じせず、わたくしを叱ってくださったことに感謝します。謝罪はしたけれど、きちんとお礼は言えていませんでした。……本当に、ありがとう』  ドナがそう告げると、セシルは子供のように顔を赤らめて、それはこっちの台詞だよ――と言った。 『君の言ったことだって、間違ってなんかいなかったさ。花冠を作ってくれて嬉しかった。それを大事にしたいと思った。……まずその気持ちを君にきちんと伝えるのが筋だったのに、できなかった。君が機嫌を悪くするのは当然だ。しかもそのたった一度のすれ違いだけで、初めて会った女の子を“人の気持ちを考えない人間”と決めつけて嫌いだなんて言うなんて、まったくどうかしているよ。……ごめんね。それから、ありがとう。思いやる気持ちを教えてくれたのは、君だって同じさ。それから……』  つん、と彼はドナの額の真ん中を小突いた。 『それから。……君のおかげで、強くなれたってこともね』  『え?』
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