<3・Wedding>

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『泣き虫、臆病者、価値観がズレている。そういうのは、幼い頃からあっちこっちで言われてきたことなんだ。君出逢った時に過剰反応したのも、要するに君と同じようなことをあっちこっちから言われてきたからだったんだけれど。……君だけは、僕の考えを真剣に受け止めようとしてくれた。違う意見があってもいい、それでも理解しようとすることはできるんだって君が気づかさえてくれたんだ。君は否定しないでくれた。男としてはひょろっちい体格も、男らしい趣味がなくて本を読んだり料理ばかりしている僕のことも。本当の意味で誰かに寄り添うって、優しさってこういうことなんだって……僕は君に教えてもらったんだ。そして、そんな君だからこそ……守りたいって強く思うようになった』 『セシル……』 『出逢った頃の僕だったら、君を背負って医者に駆け込むような度胸なんかなかっただろうからね』  そんなこともあったなあ、とドナは思う。きっとあの時だったのだろう。命がけで自分を救おうと奮闘してくれた彼に――ドナが恋心をはっきりと自覚したのは。  彼は自分を随分と評価してくれているようだけれど。大切なものを与えられてばかり、支えられてばかりなのは自分の方ではなかろうか。器の大きい両親に恵まれ、彼と出会わなければきっと自分は幼い頃のまま、庶民に寄り添う心も本当の平和について考えることもできない人間のまま今に至っていたに違いないのだから。  そんな彼の、唯一無二の家族になれるということ。それがどれほど至上の幸福であるのかなど、言うまでもないことである。 『君のことは、僕が守る。命に代えても、何を捨てても絶対に。……弱虫の僕を、君の存在が強くしてくれたんだ』 『ありがとう。……それなら、セシル』  今思えば。彼はこの時既に、何かを悟っていたのかもしれないと思う。  疲れているはずなのに、少しでも長く起きて語り合いたがっていたのは彼も同じだった。彼はひょっとしたら、少しでも自分の顔を目に焼き付けておきたかったのではないか。 『貴方が私を守ってくれる分、私も貴方を守ります。私達は家族であると同時に、人生の最高の相棒になったのですから』  ああ、何が――何が守る、だ。  確かに自分は何も気づいていなかった。わかっていなかった。あのような悲劇など一切予想などしていなかったことは否定しない。それでもだ。  あの時の彼の“守る”と、自分の“守る”は間違いなく覚悟の重さが違っていて。それなのに、彼の手を握って偉そうなことをのたまう自分に、セシルはどこまでも微笑んでいてくれたのである。
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