<5・Thinking>

1/4
前へ
/123ページ
次へ

<5・Thinking>

 何故逆行したのかはわからない――だが、まず優先すべきは“何故逆行したか”を考えるよりも前に、“何故彼が暗殺されるのか”を考えることだろう。  ドナは積極的に、テレビや新聞、書籍で情報を入手し始めた。正史通りならば、セシルが殺されることになるのはまだ先の未来である。二十一歳、あの結婚式の翌日になるまでは大丈夫、であるはずだ。それまでに何らかの手を打つことができれば、彼が殺されるという最悪のバッドエンドを回避することができるはずである。  そのためには、世界で今何が起きていて、何が彼を死へと追い詰める原因になるのかをきちんと知らなければいけないだろう。 ――まずは、あの日起きたことを整理することから始めてみよう。  十七歳のドナにはまだ学校生活がある。しかし学校で部活動をやっていなかったので、帰ってから勉強をしたり、ものを考えるだけの時間は十分にあった。彼を本気で助けたいと願うのならば、時間は一秒たりとも無駄にすることはできない。  あの結婚式と、その夜のことを思い出すのは正直非常に胸が痛かったが。それでも、こんなもの彼が受けた苦しみと比べればどうということはないはず。ズキズキと痛みを訴える頭に鞭打って、ドナは当時の記憶を呼び起こそうとした。 ――あの夜。私とセシルは、夜遅くまで語り合っていた。正式に眠りについたのは、多分……午前一時を過ぎていた、はず。  ドナが翌日起床したのは、少し遅くなってしまって八時になった頃のことであったはずだ。だが、ドナが起きた時にはもう、隣のベッドにセシルはいなかった。彼は午前一時から午前八時の間に出掛けていたことは確実であり、様々な状況を鑑みるならさらに外出時間を絞りこむことも可能だろう。  例えば使用人達は、自分達よりもずっと早く起きることになる。あの日はセシルの家で二人一緒に泊まった(教会が近いのがセシルの家の方であったためだ)。彼の家の使用人達の動き方がどうであるか、までは正確にはわからないが――ドナの家とほぼ変わらないとした場合、彼らは遅くとも午前六時には起き出して朝の準備を始めていたはずである。  使用人達が起き出して掃除や洗濯を始めていたなら、その目を掻い潜って屋敷を抜け出すのは至難の技であったはず。つまり、彼が出掛けたのは午前一時から六時の間。もっと言えば彼が発見された現場までは馬車で一時間ほどかかる距離であるはずであり、さらに警察が告げた死亡推定時刻を信用するのなら――彼が屋敷を出たのは午前二時から四時くらいの短い時間に限定されることだろう。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加