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何故、自分達がこの状況に至ったのか。それを説明するには、大幅に時を巻き戻す必要があるだろう。
この世界の現行の法律では、男女の権力はほぼ同等のものとされている。女性の地位が非常に低かった時代もあったようだが、男女同権運動が起こり、女性にも選挙権などが与えられ、結婚に関しても同等の権利が法律上認められるようになったからだ。
ただし。男女別姓は認められていないし、仮に認められていても“どちらかがどちらかの家に入る”という伝統的制度の問題は残っている。嫁入りするか、婿養子か。特に貴族の場合は、家名を継ぎ血を繋ぐことを重要視する傾向にある。必然的に“長男・長女の方が家を継ぎ、そちらによその家の次女・次男以降が嫁入り・婿入りをする”という方向へと落ち着くことが多かった。貴族の家に子供が二人以上いるのが当たり前となっているのはこのためである。次男・次女をよそに婿入りなどをさせても、その家とのコネクションを維持できるならば大きなメリットがあるからである。
そんな時代、アンカーソン伯爵家の次女として生まれたのがドナであった。
姉のラナとの仲も良好、両親との仲も良好。伝統あるアンカーソン家の次女として、ドナは何不自由なく暮らしていた。そのせいで少々ワガママに育ってしまった、好きな相手やモノに素直になれない恥ずかしがり屋になってしまった、だの言われることは時々あるけれども(自分はいわゆるツンデレキャラであったらしい、と知るのは後になってからのことである)。
次女である以上避けられないのが、本人の意思とは無関係に早期に婚約者を決めさせられられるということである。ドナも十二歳になる時にはもう将来の婚約者が決まっていたのだった。
その彼こそ、同い年でありリリー伯爵家の長男である、セシル・リリーであったのである。
――最初に顔を見た時は驚いたな。……だって、まさかこんなに小さな子が自分の夫?って思ったもの。
初めて会った時のことは、よく覚えている。なんといってもセシルは平均的な身長だったドナよりもずっと小さくて、まるで少女のように繊細な顔立ちをしていたのだから。男児の礼服を着ていなければ女の子と勘違いしていたかもしれない。彼の家は、どういうわけか遺伝的に男子が小柄になる傾向にあるらしかった。彼の一つ年下の弟も、それはそれは小さくて華奢な少年であったのだから。
婚約者というより、弟が出来たような気分だった。
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