<5・Thinking>

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 では、彼が殺されたその動機とは何なのか?犯人も重要だが、この動機も極めて大切なものだろう。犯人が個人であるならば、その個人を見つけて止めれば殺人事件は起こらずに済む。だが組織的な犯行であった場合、実行犯を一人見つけて引っ捕らえても根本的な解決にはならない。別の人間が派遣されてきて、彼を殺す可能性は十分に考えられるからだ。 ――彼が殺される理由として考えられるものは三つ。一つ目、彼に個人的な恨みがあった。二つ目、彼の家であるリリー伯爵家に恨みがあった。三つ目、彼にも家にも恨みはないけれど、彼の存在が邪魔でやむなく排除した……恐らく、このへんが妥当なはずだ。  逆恨みというものはどこにでもあるもの。どんな善人でも人気者でも――むしろ多くの人間に愛される人間ほど嫉妬されて恨みを買うなんてことはざらにあることだろう。ゆえに、個人的な怨恨でセシルが殺害される可能性を完全に否定することは難しい。  ただ、贔屓目が入ることを踏まえても、彼が誰かに恨まれる人間とは思えないというのがドナの本心だった。他人と喧嘩することも知らないようなお人好しである。高校での成績も良く、大学に飛び級で合格していたことを知っているのでそれで嫉妬を買うことがあったのも間違いはないだろうが。  彼に子供の頃からの婚約者がいた事実は、皆が知っているところである。学校でも周知の事実だったことだろう。裏を返せば、女性達への大きな防波堤になっていただろうということは想像に難くない。滅多なことでもなければ、彼に不用意に寄っていく女子は少なかったと思われる。せいぜい、遠くからキャーキャーと叫んで片想いに浸るファンがいたかどうかといったところだろう。 ――では、家に恨みがあったかどうか?なんだけど。これは現時点では情報不足としか言いようがないな。リリー家に関してはもう少し調べてみるしかなさそうだ。  ただ、この可能性はさほど高くないだろうとドナは踏んでいた。むしろ、だからこそ早々にリリー家そのものに探りを入れることを、当時のドナも打ち切っていたのである。まあ、セシル殺害されて、仇を討ちたかったあの時のドナと、彼の悲劇そのものを防ぎたい今のドナでは必要な情報が違うというのもあるのだけれど。  それよりも可能性が高いと思ったのは、三つ目の可能性。セシルに恨みはなかったけれど、彼の存在が邪魔だった――こちらの方である。 ――彼の存在そのものが邪魔だったとすると……一番可能性が高いのは、“神の巨人”を平和的に無効化する方法を考えてたという……あの研究が邪魔だった、ということか?
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