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結婚というものにイマイチピンと来ていなかったドナであったが、自分はこの子と仲良くならなければいけないのだということだけは認識していた。逢って最初の日、お庭で二人で遊んできていいというので、ドナは彼の手を引いてリリー家所有の丘まで遊びに行ったのである。この子は自分がリードしてあげなければいけない、というすっかりお姉さんの気分だったというのもあるだろう。なんせ初日の彼は顔合わせの時もずっともじもじとしていて、まともに会話すらできない状態であったのだから。
庭で遊ぶと行っても、やることと行ったら鬼ごっこと読書、花摘みとままごとくらいなもの。そしてドナは幼い頃から読書があまり好きではなく、体を動かすような活発な遊びばかりを好むような少女であった。とりあえず妥当な線として、彼と一緒に花摘みをすることにしたのである。丁度、シロカナギの花が綺麗な時期だった。シロカナギの花は茎が頑丈で細いので、結んで花冠を創るのにはぴったりであったのである。
自分が器用なところを見せてやろうと意気込んでいたドナ。その試みは、途中までは成功していたと言っても過言ではない。ドナが花冠を作ると彼は驚いてくれたし、一度も花冠など作ったことのない彼に作り方を教えるのは大層気分が良かった。
問題は、この後のことである。
『そろそろ、屋敷に戻らないと怒られちゃう。セシル、一緒に帰ろ』
『あ、待ってドナちゃん』
作った花冠をその場に捨てて行こうとするドナに対し、セシルは花冠のみならず、使った花全てをその手に抱えて持って帰ろうとしていた。ドナは呆れてしまった。そんな風に抱えたら、せっかくの綺麗な洋服が土と植物の汁で汚れてしまうだけだというのに。
そんなに花冠が気に入ってくれたのだろうか。しかし、それならば花冠だけ持って帰ればいいものを。
『そんな風に持っていったら汚れちゃうよ。花冠ならまた今度作れるし、捨てていきなよ』
ドナが言うと、セシルは心底驚いたと言わんばかりに目を見開いて、どうして?と言ったのだ。そう。
『どうしてそんな酷いこと言うの?ドナちゃんは、このお花に感謝しないの?』
『感謝?』
『そうだよ。……他の動物は、生きるため、ご飯にするために植物や他の動物を殺す。でも、僕達が今花冠を作ったのは生きるためじゃないでしょ?……生きるためじゃなくて、楽しむために植物を殺すっていう、とっても酷いことをしたんだよ。人間だけが、そういうことをするんだ。だったらせめて、殺してしまったお花に感謝の祈りを捧げていつまでも保管しておくか、丁寧に弔ってあげないとダメだと思う』
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