<2・Affectionate>

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 自分と違う主張をされた時。あるいは自分が思っていたのとまるで違う方向から反論された時。ただ“否定された”という事実だけが頭に残り、その反論の内容を一切受け止められない人間というものは少なくない。パニックになっていたり、幼くてまだそれだけの思考力がなかったりしたのであれば尚更である。まさに、ドナはその状態であったのだ。  自分の意見を肯定してくれなかった姉にショックを受けつつも、少しずつ冷静さを取り戻したドナは――どうにか彼女の考えを、ひいてはセシルの考えを認めて頷くことができたのである。  一度根付いた認識は、そう簡単に変えることはできない。どんなに話し合っても分かり合えない相手というものはどこにでもいる。それでも、お互いのことを“理解しようとする努力”をするかしないかは大きな差に違いないのだ。  後日、両親にも同じ相談をしたところ、姉と殆ど同じことを言われたことを記載しておく。  もうすぐ十二歳になる少年があっさり泣いたことに関しては少々渋い気持ちにもなったようだが、彼らは同じだけ彼の独特な価値観を尊重したいと思っていたらしかった。 『勇敢な子ではないかもしれないが。……ああいった優しい子は、きっと貴重な存在だよ。ドナのことを、誰よりも大事にしてくれるはずさ』 『……そう、なのかな』  父の言葉は、本当になった。後日もう一度面会した時、ドナはセシルに自分から謝った。セシルもパニックになったこと、嫌いと言ったことを謝罪してきて、それでひとまず仲直りとなったのである。  セシルは本当に変わった少年だった。泣き虫で大人しい、あまり貴族の家長らしい少年ではない。それでもとても博識で、人の痛みが分かる子だった。ニュースでよその国が戦争をしてたくさんの人が死んでいるという話を見た時は、ぽろぽろと涙を流して悲しんだほどである。 『戦艦キノックは、キノック型の中でも一番大きくて強いんだ。同時に、世界で初めてクノ酸ミサイルを搭載してることでも知られてる。あれを陸地に打ち込むと、ただ爆発して重大な被害を齎すだけじゃないんだ。後々まで酷い土壌汚染を齎して、生き残った人たちを苦しめるんだ。……なんでそんな酷いことをするんだろう。戦争をするだけで恐ろしいことなのに、何で今の戦争とは無関係の未来の人たちまで苦しめようとするんだろう……』
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