<2・Affectionate>

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『僕達の国は、前の王様までは酷い戦争をしてたんだ。戦争なんか絶対にダメって言うのは簡単だけど、僕はただダメって言うだけの人間にはなりたくない。戦争を“起こさないため”に、どうしたら“戦争するしかない状況”を回避できるのか。それを考え続ける人になりたいんだ』 『いっそ戦争じゃなくて、別の方法で互いの主張を認めるやり方があればいいのにね。スポーツで国の存亡を決める……とか。あはは、そんなのいくらなんでも突拍子がなさすぎるかな』 『貴族で男なのに料理なんて、って言われるかもしれないけど。僕は、家で勉強をしたり家事をする方が好きなんだ。その……ドナにも、食べてもらいたいんだけど、いいかな?お母様と一緒に、初めて作ったパイなんだけど』 『ドナ、大丈夫!すぐにお医者さんのところに連れていくからね。しっかりしなよ、ドナ!!』  つんけんと喧嘩するところから始まった、ドナとセシル。それでも何度も会ううちに彼の独特な価値観と優しさに触れ、ドナもまた少しずつセシルのことを気に掛けるようになっていったのである。  成長するにつれ、彼は少女のような繊細さを残しながらも、可愛らしいといよりどこまでも美しい青年へと変わっていったのだった。心優しく穏やかで博識な彼に魅かれるライバルは他にも何人かいたようだけれど、ドナには“婚約者”という絶対的なアドバンテージがある。嫉妬してついつい彼の腕を引き寄せたり、他の女の子の邪魔をしてしまったり。そんなドナを彼は時折諌め、同じだけ愛しいと言ってキスを落としてくれたのだった。  戦争がない平和な世界を作るため、どうすればいいのかを彼は常に考え続け、その理論を披露してくれて。  ドナが高熱を出して倒れた時は、何の感染症かもわからないというのにそのまま担いで医者まで連れていってくれた。けして体格が良く、体力がある方でもなかったというのに。  料理を作ってくれたこと、一緒に馬術の練習をしたこと、女でありながら剣術を学びたいというドナに付き合ってくれたこと――あまり学校の成績が振るわなかったドナに、いつも丁寧に勉強を教えて付き合ってくれたこと。  最初の出会いこそ最悪に近かったが、こうして思い返すと殆ど彼の良いところばかり思い出すものだと思う。彼は幼い頃、本人の意思とは関係なく決まったはずの婚約者に対してどこまでも誠実だった。優しく、清らかな心の彼にどれほどドナは救われ、心を洗われていったことかしれない。  正式に籍を入れたのは、この国の法律に則って両方が二十歳になってからのこと。
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