<2・Affectionate>

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 結婚式を挙げたのはその翌年、二十一歳の時のことだった。どうしても結婚式を挙げたかった教会が前年の地震で崩れてしまって使えず、完全に補修工事が終わるまで待つ必要があったからである。  ドナとセシルの関係も、両家の関係もどこまでも良好だった。不穏だったのは、この国――エディス王国の情勢の方である。  元々、エディス王国は世界でも有数の先進国であり大国として名を馳せた国の一つであった。ただし、百年以上昔の世界大戦後の急激な高度経済成長の結果――環境汚染を気にせず工場を立て、鉱山を掘ったことで、深刻な土壌汚染や大気汚染に悩まされるようになっていたのである。  前のエディス王国国王は、どこまでも好戦的な人だった。  安全に人が住める土地、作物を育てられる土地が枯渇してきたと見るやいなや、戦争でよその国から綺麗な土地を奪い取ればいいと判断するような人間であったのである。結果、大戦から高度経済成長を経た後で、この国は二度も他の国に戦争を吹っ掛けることになったのだった。まあ、平和的にもろもろ解決しようと考えられるような国王ならば、そもそも利益欲しさに世界大戦に首を突っ込むような真似をするはずもないのだけれど。  そのエディス王国も代替わりをして穏健派の息子が王座に座り、もう二度と戦争など起きないだろうと思われていた。それが、およそ五十年前のことである。  だが、再びこの国が、よその国と緊迫した状態になりつつあるのだ。“世界への天罰”こと、“神の巨人”と呼ばれる存在が他国領土に出現したがゆえに。 『神の巨人。一体誰が、最初にそう呼んだのだろうね。数十メートルにも及ぶ巨大な背丈、鋼のような硬さと高温の肉体……世界を蔑ろにして、戦争を繰り返したこの世界への、あるいはこの国への罰なのかもしれない』  それがどこから現れたのか、本当に神の使者なのかは誰にも分からない。  確かなことは、隣国の土地に現れたその巨人が、少しずつ大地を踏み鳴らしながらエディス王国に迫ってきているということだった。
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