素敵な嘘つき

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 いつもと同じように陽が登り朝がくる。でもそれは決して同じではない。ひとつひとつ大切な時間が積み重ねられている。  一文字一文字、顎に固定したスティックを使い私は文字を重ねる。物語は一文字一文字増えていく。  少し疲れて止まっていることに気づいた里見さんが、 「ちょっと休む?」 と声をかけてくれた。 『ウン』  あの日私に降った椿の桜の花弁で、里見さんがポプリを作ってくれている。 「今日はおしまいにして、読む?」 『ウン』  視線と瞬きで返事を打つ。  こんな私ではあるけれど、里見さんが開いてくれた小説投稿サイトで、新しい作品を探して思う。 「素敵な嘘つきになってね」  夢を追う人たちに向かって、椿からもらった勇気を送りたい。彼女と私の祈りを見ず知らずの才能たちに捧げたい。  素敵な嘘つきになってね。  私も目指し続ける。最後の(とき)まで、素敵な嘘つきでいようと。 〈 fin 〉
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