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私とメイは、ミネソタの同じハイスクールに通っていた。当時から高校の中では知らぬ者のいない完璧な美貌を誇っていた。ほっそりとしなやかな手足に陶器のように滑らかな肌。透き通るようなターコイズブルーの瞳は、道行く人全てを振り向かせた。目を閉じれば今でもまぶたの裏に、彼女の姿がありありと蘇る。ミネソタの厳しい冬を、白い息を吐きながら頬を好調させ、天使のような微笑みを私に投げかけていた彼女を。  彼女が演劇に真剣に取り組み始めたのは、一七の夏からだったと記憶しているが、それ以前から女優としての資質を垣間見せていた。今でも彼女を想うと一番に思い出すのは、ハイスクールの一年目にスクールバスを待ちながら、憂うような気だるい視線をネルーダの詩集に落とし、ゆっくりとページをめくっている、横顔である。十六の頃、メイが演劇クラブでソーントン・ワイルダーの『我が町』でエミリーを演じていた時、私は予感めいたものを感じ取っていた。彼女は必ずこの道に進むと。ハリウッドやブロードウェイでも、あれほど美しく完璧にセリフを言えるものは他にいなかった。すでに都会的なあか抜けた容貌をしていたにも関わらず、田舎娘エミリーのみずみずしさ、そして生きることの苦悩や死への不安を見事に表現していた。作品の良さ以上を彼女は引き出していた。  メイがハイスクールを卒業して西へ行った後、私はミネソタ大学の経済学部に進学した。大学では新聞部に入った。その時は意識こそしていなかったものの、それらの選択はいつの日かまたメイ・ウィリアムズに会うため。メイ・ウィリアムズの背中を追いかけるためだった。私はカレッジでの四年間、二年目の冬に彼女がデビューする前から、ひと時も彼女のことを忘れたことは無かった。
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