展開図

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 通りすがるその瞬間思わず、あ、と声が漏れた。前から似ている、似ているとは感じていたのだ。けれど実際こうして会えなくなって改めてじっくりと眺めると、やはり彼女とそっくりだなあとしみじみ思った。  恐る恐る両脇を抱え、そっと持ち上げる。四、五十センチメートルほどのキティちゃんのぬいぐるみはいつもどおり左耳に赤いリボンをくくり、つぶらな瞳につんと澄ました表情でじっと僕を見ていた。  ああ、本当に似ているなあ。僕は大きなキティちゃんのぬいぐるみをきつく胸に抱き留めたまま一直線にレジへと向かう。プレゼント用ですか? と訊ねられたがそれは否定し、 「値札だけ外して、そのままください」  レジの向こう側で不審そうに僕を見つめる女性店員へ笑顔で礼を伝え、僕は早矢香ちゃんそっくりのぬいぐるみの手を取り、雑貨店を後にした。  ぬいぐるみの早矢香ちゃんは左手を僕に預け、残りは全て重力に任せてだらんとしている。こんな態勢ではぬいぐるみの早矢香ちゃんは肩を脱臼してしまうかもしれないと思い、僕はぬいぐるみの早矢香ちゃんに目配せをする。ぬいぐるみの早矢香ちゃんは、真っ黒な瞳で前だけを見つめており、痛そうではなかった。ああ、よかった。僕はぬいぐるみの早矢香ちゃんの手をより一層強く握る。  すれ違う二人組の男子高生に「うっわー何あいつ、キモ」と笑われ思わず傷ついてしまうが、ぬいぐるみの早矢香ちゃんは「そんな人たちなんて気にしなくていいんだよ」とでも言いたげにじっと遠くを見ていたので、僕もぬいぐるみの早矢香ちゃんに倣って前だけを見据えた。  ぬいぐるみの早矢香ちゃんの手は、新品のぬいぐるみみたいにふわふわしていた。
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