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短い静寂が辺りを包み込む。
沙菜のしゃくり上げる声だけが周囲に響く。
「今度の日曜、空いてる?」
「……」
「空いてないなら、その次の日曜は?それもダメなら」
「あ、空いてます。日曜……」
先に口を開いた要に、沙菜は少しだけ泣き止んで答えた。
「キミが好きなら川にザリガニ釣りにでも……」
「……もうザルガニはいいです」
「うん、そうだな。じゃあ水族館にでも行くか俺と、嫌でなければ」
「はい、嬉しいです」
沙菜は蚊の鳴くような声で、小さく頷いた。
2人はそのまましばらく黙って歩き始める。
「でも、野見山先生もいろいろ大変そうでしたね」
ようやく口を開いた沙菜が要を見上げて話し始めた。
「ああ、ザリガニが話し相手だったな」
「ザルガニは先生と私たちの秘密を黙っていないといけないので、本当に大変」
沙菜が冗談交じりに笑うと、要は大真面目な顔で返事をした。
「大丈夫さ、あのザリガニはきっと今回のことはみんな忘れてくれるさ」
「どうして?」
「だって、ザルガニだろ?ザルだけに全部水に流してくれるさ」
要と沙菜は明るい笑いの花を咲かせながら、街灯の金色の光の下を、弾んだ足取りで歩いて帰った。
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