閑話休題・外科の実態 休載のお知らせ

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閑話休題・外科の実態 休載のお知らせ

閲覧頂き誠にありがとうこざいます。 コロナ渦中の闘病日記は、著者の手術に伴い休載致します。 手術に向けたエピソードや感染性心内膜炎の病状の経過についてアップしたい内容がございますので、今しばらくお待ち下さい。 (次回更新は5月の上旬予定) 医療ミスってこうやって起きるのかな? 目を疑うような出来事が記載されておりますが、全てノンフィクションです。 一切脚色はありません。 医療機関と言っても、人間が運営しているのだから仕方ないかもしれませんが、洒落にならない出来事の連続に唖然としております。 私の手術が人的ミスがなく、無事に終わることを今は祈るのみです。 医療従事者ではない一般人の著者からすると外科滞在2日目にして、十分過ぎるスリルを味わっております。 明日は手術日なのに…。 不安はつきませんが、これらの体験記が皆様のご参考になれば幸いです。 【外科の実態】 今日の日勤の看護師は外したな。 私は心の中で舌打ちをした。嫌な予感は良く当たる。当たるなら宝くじにして欲しい。入院代に充てるから。 循環器内科に1ヶ月以上入院していると、各看護師の経験が分かってくる。今年入社4年目辺りが多く、つまり全体的に経験が浅く若い。しかし、他部署から異動、中途採用、長年お勤めの方等々、経験が多様なので、看護師と一概に一纏めに語れない。 感染性心内膜炎の手術を控え、看護師長と主任にお願いして昨日から外科に移らせて貰った。この移動が大正解だった。移動して早々手術に向けての分厚い説明書を渡され、読むように言われた。外科に移らないと入手出来ない重要な資料だ。部屋の空き状況より循環器内科から外科の移動が手術前日になることもある。 しかも、術後に運ばれる集中治療室(ICU)には貴重品は一切持ち込めず、大人用オムツ・尿パット(術後は寝たきりになる為)等の限られた荷物しか持ち込めない。 昨日手術を行った男性は、早くから外科に入院していたにも関わらず、直前になるまで手術で患者が用意すべき物を含め説明がなかったと、身内に愚痴をこぼしていた。 循環器内科と外科の共有の休憩所・デイルームで4日間、夜7時~7時30分まで(たまに昼間)大きな声で話していた高齢者の男性 だ。デイルームは私もよく利用しており、外科への不満は偶然耳に挟んだ。まだ循環器内科にいたので、大変だなぁくらいにしか捉えていなかったが、いざ自身がその立場に置かれると焦った。 聞いてないよ、こんなに準備があるなんて!追加の買い出しもあるじゃない! 3日前に移動してこんなに焦るなら、長らく外科にいた男性にとって晴天の霹靂だっただろう。しかも、5~6時間で済む簡単な手術と執刀医から聞いていたにも関わらず、実際は10時間以上の大手術になった。 しかも、私の執刀医がその男性を執刀したのは、私にメスを入れる執刀医だ。 腫れたがった左足を冷やす為にスタッフステーション(医療従事者の事務スペース)に立ち寄り、保冷剤を借りたときに耳にしてしまった。 足がガクガク震え、ベッドに帰る気分になれずデイルームに逃げた。 平静を保つのは、はっきり言って無理だ。 移動して2日目の今日の担当(毎日担当看護師が変わる)は20代前半の若い看護師だった。案の定、ナースコールを押しても来ないし、"お待ち下さい"の一言もない。 点滴を刺した場所が痛い。点滴は針と一緒にシリコン製の細い管が静脈に刺され、抗生剤が投与される。私の左腕は静脈から抗生剤が2回漏れ、酷い内出血で半月程腫れ上がっている。寒さ避けのカーディガンを着ようと腕を通したら、激痛が走るくらい酷い。 「あら、随分腫れたわね」 内科医や循環器内科の看護師に心配されたのは1度や2度ではない。 頼みの右腕も度重なる点滴で血管が弱っていた。折角繋いでも、血管が脆くなっているので、うまく抗生剤が流れないのは日時茶飯事だ。 ナースコールを押したのは、点滴の管を替える"差し換え"をお願いしたいからだ。放置すれば腫れ上がり、内出血を起こす。何とか頑張っている右腕の負担を軽くしたいし、手術前なので余計に気を使った。 結局、今日の担当の看護師は来ず、代理で眼鏡をかけたベテランとおぼしき看護師が来た。 「差し換えて欲しいので、(シリコンの管を)抜いて貰えますか?」 眼鏡をかけた看護師は何も言わずカーテンを閉めると、暫くして差し換えの道具箱を持って戻ってきた。 「あの、今日の担当の方は?」 「別件で仕事があり来られません」 病棟の午前中は1日で一番忙しい。眼鏡をかけた看護師はイライラしていた。 シリコンの管を早く抜いて欲しいので、それ以上担当について聞かないことにした。 「あの、これ抜いて貰えますか?」 眼鏡をかけた看護師から返答がなかった。 「痛いんです。抜いて下さい」 語気を強めてもう1度言うと、彼女は一瞬眉間にしわをよせた。 ガチャガチャ 差し換えの道具箱を漁り、手荒に私の右腕に刺さったシリコンの管を抜いて、新しい管を刺した。(数分後に別の看護師にやり直して貰った。刺した場所が悪く、痛みが生じた為) シリコンの管を抜いた際に血が飛び散り、ベッド・枕・布団カバーにかかった。 循環器内科ではすぐに看護助手が新しいそれらに取り替えてくれたが、眼鏡をかけた看護師は放置したまま、何処かに行ってしまった。外科だから血に見慣れているのか、それとも血が吹き出しても気にしないのか。 後で交換して貰おう。 何の気なしにベッドの備え付けの机を見ると、見慣れぬ何かを見つけた。 え? これ、今刺しているシリコンの管をカバーしていた医療器具?なのか? 名前は分からないが、放置はまずいだろう。 「すみません!使用済みの医療器具?置きっ ぱなしです」 咄嗟に叫ぶと「何が」と言いながら、眼鏡をかけた看護師が戻ってきた。黙って私の手からそれを引ったくった。 更に驚いたことにさっき落としたらしい別の医療器具が布団に落ちていた。 …マジかよ。 認知症の患者が誤飲したらどうするんだよ。 頭にきたので黙って置いたままにして、呼ばれていた精神科に行った。(週1~2でカウンセリングを受けている。鬱病の為、精神安定剤と睡眠導入剤を処方されており、薬の効果の確認も行われる) 精神科医に一連の事情を話すと、外科は何をやっているのと絶句した。 外科とは何とアバウトで雑なのか。 私も呆れて言葉を失った。 精神科でカウンセリングを終えてベッドに戻ると、いつの間にか医療器具は回収されていた。 やっぱりまずかったんだ、放置しておくの。まぁ、いいや。点滴をお願いしないと。 ナースコールを押し、やっと今日の担当の看護師が来た。血が飛んだシーツを交換して欲しいとお願いしたところ、私は看護師からの返答に閉口した。 「明後日手術ですからそのままでいいですよ ね」 いくら若いからとは言え、患者への配慮がなさすぎる。 己の血を見ながら術前を過ごす気分は、はっきり言って良くない。ふつふつと怒りが込み上げる私に、追い討ちをかけるように看護師は、今すぐリハビリテーション室に行くよう言った。 待て。今朝、あなたが来る前に今日は何もないからゆっくり過ごせると他の看護師から言われたばかりだぞ。 手術の朝に荷物を①ICU(集中治療室)②ICUから出てから移る個室③看護師長に預ける貴重品、に分けなくてはいけない。今日はゆっくり出来るから早めに荷物を分けようとしていたのに、何故? 「歩行の練習です、行って下さい」 マニュアル通りの物言いに、思わず逆上した。 「今日は検査も何も無いと聞いています。 しかも今、(感染性心内膜炎の)菌が左足に とんで痛いし腫れも引いていません。歩行 の練習は無理です」 怯む様子もなく、一枚の紙を差し出した。 「では、これにサインをして下さい」 差し出された紙は、私がリハビリを受ける為の承諾書だった。A4の紙にびっちりリハビリに関する説明が書いてある。 専門用語ばかりが並び、何を書いてあるのかさっぱり分からない。 想像して欲しい。サインが必要な大きな買い物をする際に、説明を受けずに契約書に署名をするだろうか。良識の持ち主であればサインしないはずだ。 しかも、左足の腫れは循環器内科にいた数日前から起きており、内科の看護師が電子カルテを残している。それを読んだ内科の医者が驚くくらい赤紫に左足は腫れ上がっていた。歩行は困難でトイレに行くのもやっとの状態だ。 電子カルテを読んでいれば、今の段階で歩行の訓練は本人の負担になると分かるはずだ。つまり、担当患者の電子カルテをろくに読んでいないのである。 「リハビリテーションは無理です。術前にや る意味が分かりません。同意書も書きませ ん」 看護師はそれでも同意書を差し出した。 「では、午後にでも書いて下さい」 私は黙って同意書を受け取り、私がクリアファイルに入れた。それを確認してから、看護師はベッドを離れた。 読み通り看護師の経験は浅かった。 他の看護師に相談したところ、大卒・24歳・女性・看護師歴2年目に入ったばかりの新人だった。看護師は丸3年経験してやっと1人前になると言われると循環器内科にいた看護師に聞いていた。 恐らくマニュアルの基本を押さえたが、応用までいかず、本人としては看護師の仕事に"慣れた"と思い込んでいる時期であろう。 高齢者が多い医療センターでマニュアル通りの対応をすれば、医療ミスに繋がりかねないし、最悪患者がどうなるか火を見るより明らかだが、私には一切関係ない。 彼女をまともに教育出来ない医療センター側の責任である。 手術前にして不快な思いをしたことには変わりなく、それが身体的に影響が出てしまった。 左半身の足と手が自由に動かしにくくなんだのである。脳梗塞ではなさそうだが、不随に近い症状が出てしまった。 しかも、左側が全体的に気だるくなり、1度椅子などに座るとなかなか起き上がれない。 もう、疲れた。 看護師との一連のやり取りがあって心身共に疲れてしまった。 何のために1ヶ月以上、循環器内科で点滴をして、手術のために外科に移る交渉をして、手術に備えてきたのか分からない。 「手術を撤回したい」 私が心配で循環器内科からわざわざ仕事終わりに様子を見にきてくれた看護師に訴えた。 手術の必要性は十分理解しているが、外科が信用できない。 簡単な手術だと、月曜日に手術をした高齢の男性に説明をした、私にメスを入れる執刀医が信用できない。私にも同じように5~6時間で終わる難しい手術ではないと説明をさした。しかし、他の心臓系の医師に聞けば、難易度の高い手術だと言われた。 もう外科の誰を信じらいいか分からない。 泣いて訴える私を、循環器内科の看護師は慰め、話を聞いてくれた。彼女に話をして、残業させるのは申し訳ない。しかし、外科に心を開いて話せる看護師が誰もいない。 循環器内科に帰りたい。 内科治療を済ませて帰りたい。 我が儘を聞いてくれた循環器内科の看護師から、外科の看護師に私の様子を共有し、外科医と内科医にも説明して良いかと聞かれた。 情に訴える内容を外科医に話しても無駄だと思うから話さなくていい、但し身体の左側の異変は伝えて欲しいとお願いした。 パートナーともLINE電話で相談したところ、手術の説得をされた。 仮に手術をしないで退院した場合、心不全(感染性心内膜炎の菌が付着した弁が壊れ、血液の逆流を引き起こし身体に酸素がいかなくなる。脳死の引き金)、または脳梗塞のリスクを背負って生きることになる。 手術をしても不随になる可能性は3割だ。 手術をしようが、しまいが、私は死や身体的に障害が残るリスクと隣り合わせなのだ。 散々話し合った結果、私は私の為に手術をすることを止めた。パートナーの為に、心臓をかけることにした。 大人気漫画・進撃の巨人が4月9日発売の別冊少年マガジンで最終回を迎える。手術が無事に成功したら漫画のアプリで読もうと楽しみにしている。 リアルな"心臓を捧げよ"だけは嫌だなぁ。 どんなに追い詰められても、結局思考はオタクモードになる。私らしいなぁ。 今、この日記を書いている手術前日の4月7日の朝は、久しぶりの快晴だ。 朝の配膳で走り回る看護師の足音が聞こえる。 「ご飯、机の上に置くね!名前確認してい い?」 看護師に声をかけられて私は振り向いた。 廊下の窓辺で日記を書いていたが …そろせろベッドに戻るか。 皆様、お元気で。 手術が無事に成功したら、またお会いしましょう。
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