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「あの…パンおわっちゃいましたか。」 あ、お客様か。落ち着け、落ち着け。 「申し訳ありません。今日はもう閉店で。」 「今日は、ずっと外回りで昼抜きだったから残業前にここのパン食べてなんて思ってたんで…」 ふと自分のトートバッグの中のパンの存在を思い出した。 「閉店しちゃったので、お売りできないんですけど、私が持って帰るつもりだったセールパンでよろしければ…」 「いいんですか?」 「選べないので申し訳ないですが。」 「いやぁ、助かります。すっかりここのパンの口になってたんで。お金払います。」 「いえ、いいです。それじゃ。」 「俺、すぐそこの両和機器の矢野和宏って言います。また、買いに行きます。」 ペコリとお辞儀をしてから、ニカッと笑った顔が、高校時代片想いをしていた佐々木くんに似ていて、懐かしい気分になった。
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