来訪者

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 ロングブーツのヒールをカツンと鳴らし、少女が青年――ルトヴィックの左隣に立った。柔らかなウェーブを描くピンクブロンドの髪が夕映えの風に揺れる。 「舞踏剣術(バイレ)の親善試合は表向き。本来の任務は大和支部の偵察と」 「わかってるよ、ロザリー。魔者組織『オルキヌス・オルカ』のナンバー2に関する情報収集。でもなんでコソコソやる必要が? ヤマトに潜伏してるなら支部の人間の手を借りれば早い。同じ組織なのにまるでスパイするみたいで、なんか嫌だなぁ」 「信用に値すると判断すれば、もちろん協力要請するつもりですわ。でも大和支部は閉鎖的で謎が多いから。ボスは円卓会議にも滅多に姿を現さないミステリアスな人物だし。まずは動向を探ってからね」 「大和支部司令の名前はたしか、アキト・アヤナギだっけ。彼は第五天使ラジエルの聖痕者だろう? キレ者だと噂だけど、ふうん、会うのが楽しみだな」 「油断するなよ。アヤナギ家は日本古来より伝わる秘術の使い手だとも聞く。お前はそうでなくとも問題児なんだ、ルトヴィック」  白銀の髪の青年――ラクリマが右隣に立つ。ロザリーがクスリと同調の笑みをもらした。 「そうそう。ただでさえ誓約者(イヴ)を決めない貴方を、本部は快く思っていないのだから。せめて舞踏剣術(バイレ)で無様に負けて醜態をさらすのだけは勘弁してちょうだいね」 「手厳しいねぇ、二人とも。でも仕方ないだろう、決めないではなく『見つからない』んだから。同じ祓魔騎士(シンクワィア)の君ならわかるだろう、ロザリー」  気の置けない仲間の苦言に挟まれながら、ルトヴィックは肩をすくめてみせる。 「そうね。でも、冥魔を完全に倒すには誓約者(イヴ)が必要だということも貴方は理解しているでしょう? 13月を終わらせるために、私たちは真の武器を手に入れる必要がある」 「武器って、洗礼者(サクラメント)も僕らと同じ人間だよ。道具のようには考えたくないな」 「わかっているわ」ワイン色の瞳の端でチラリとラクリマを捉えた後、ロザリーは続ける。 「でも、私たちが課せられた使命を果たすには不可欠な存在ですのよ。特に特別な存在である貴方には。――まあ、もしかしたらこのヤマトでその『運命の相手』と出会えるかもしれないし。有意義な十日間になるといいですわね」 「運命……か。どうして神は戦う力を二つに分けたんだろうね」  戦う力を祓魔騎士(シンクワィア)に、その武器となる力を洗礼者(サクラメント)に。  二人で一人。それは遥か昔、地上に最初の人類が誕生した時から続く、番の掟のよう。 ――でも、きっと。  花弁の舞う夕風の中で、胸元にあてた右手をルトヴィックはぎゅ、と握る。  一目見ればすぐにわかるだろう。誰が、自分の運命であるか。  魂と魂が呼び合うその瞬間を、心が、体が、ずっと待ち望んでいる。 「さあ、行こうか。やることが山積みだ」  その言葉に応えるように、七芒星が二つに分かれ、巨大な門扉が開いた。  色づき始めた高い空に、澄んだ鐘の音が響く。  手をほどき、異国の風を胸に吸い込む。  花の雨が降り注ぐアプローチを、三人はそれぞれに踏み出した。
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