春を売る

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  彼女の存在に気が付いたのは、蝉に交じって鈴虫の声が聴こえるようになった季節だった。    僕はフリーのイラストレーターで、最近やっとイラストの仕事一本でつましい生活ができるようになった。  おかげで遊びに行く暇もなく、家にこもってペンタブとタッチペンを相手にしている。    それでもやっぱり気分転換は必要で、そんなときは歩いて五分の図書館に行く。    最近建て替えられたそこは、木のぬくもりを感じるたたずまいで、清潔で、それでいて本の匂いがして大変気に入っている。    彼女はよく花柄のワンピースやスカートを身にまとって、文庫や児童書のコーナーにいることが多かった。  
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