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奥平(おくひら)君、本当にありがとう、声を掛けてくれて」 「いいんだよ。こんな何もない山の中なんて都会育ちの君には退屈だろうけど、少しは気晴らしになるだろう?」 「ああこんな落ち着く場所は初めてだ。良いもんだな田舎も……」  市川圭太(いちかわけいた)は腰高窓から顔を出して、ビニールハウスが並んだ平地の先に、濃淡の緑を蓄えてどっしりと構えた山を見上げた。犬の吠える声やコッコッコと鳴く鶏に、目の先の原生林から鳥の囀り、時折キィーキィーと野生動物の騒ぐ声が聞こえる。 「おい、猿もいるのか」  と、野生の猿の声など耳にしたことのない市川が、若干はしゃいだ様子で隣にいる奥平泰司(おくひらたいじ)に顔を向けた。市川の横で見慣れた風景を眺めていた奥平は、市川の無邪気な問いに白い歯を見せて小さく笑った。 「当たり前さ」  奥平は山林に囲まれた田舎で見ると、ますます都会っ子に見える生白い市川に呆れたように言って、また外に顔を向けた。
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