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「来てくれてありがとう。小町里美さん」
暗闇の向こう側から自分の名前を呼ばれた。
その声に聞き覚えはある。去年1年間クラスメイトだった小田隆道の声だ。
ここで私は急に怒りがわいてきた。
女子をいきなり暗闇の部屋に閉じ込めるなんて。
いささか、どころじゃない。とんでもない。私が何されたと嘘を言っても全部本当のことだと通ってしまうだろう。
「驚かせたのは謝るよ。でも、僕の本気を知ってほしかったからだ。遊び感覚で君に告白するわけじゃないってね」
重い――。
私が嫌う恋の形がのしかかってきたのだ。
私はうんざりした。暗闇の中だからって思いっきり嫌な顔をしてやった。明るい場所だったらさっさと立ち去っていただろう。
「こんな暗闇の中に呼び出してごめんなさい。でもね、こんな暗い場所が今の僕の心の中なんだ。ええと……」
彼は私の反応を気にした。
私は暗闇の向こう側に注意力を向けた。
さっき私の背後の出入り口の扉をいきなり閉めた人がどこかにいるはず。その人は小田隆道の仲間で、今は部屋の外の廊下側にいるのだろう。この真っ暗な部屋の中には他に誰も潜んでいないようだった。
小田隆道が冗談でこんなことをやっているのではないともわかった。
私は頷いて言った。
「続けて。言いたいことを言えばいいわ。小田くんから全部の告白を聞いたあとで私は喋らせてもらうから」
「ありがとう」
と彼は丁寧に言った。たぶん、暗闇の向こう側で頭も下げただろう。
私は礼を言われるのは心外だった。だって、こんな奇妙な展開を途中で打ち切りたくなかったからだ。告白ってよりも面白い話が聞けるって私は考えてしまっていた。
――なんて、一体何を考えているんだ私は?
私は自分自身と小田隆道のことも変な人だなと思った。
私たちは変な人同士なのかな。だから、小田くんは私のことを好きになった?
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