98人が本棚に入れています
本棚に追加
二の宝〜天の巻
「なあ、俺の描写って、ちょっとばかし男っぽ過ぎやしないか……」
例によってキャラから筆者へのクレームです。
今回は神武時空ちゃん。
一応女子高生なので『ちゃん』付けにしました。
「ふざけてんのか、この野郎!」(時空)
い、いや……そんなつもりは(汗)
じ、じゃあこの第二章から設定を修正してみます。
言葉使いを『俺』から『私』へ。
スカートの丈を短くして、髪も艶艶のポニーテールに。
箸より重いものを持たない主義で、か弱いけどお茶目でカワユク。
「てへっ♪」が口癖で……
(しばしの沈黙)
「……ごめん。なんか気持ち悪い。今のままでいいや」(時空)
と、トキさあん……
八刀神神社での出来事から数日後……
時空に、神鏡を手にしてからの記憶は無かった。
気付くと、青く輝く剣を手に立ち竦んでいたのだ。
更に驚いた事に、時空が正気に戻ると同時に、剣も神鏡に戻ってしまった。
時空も尊も目の前の出来事が信じられず、暫し呆然としたのだった。
「二人同時に幻覚を見たとも思えない」
理性の戻った尊が口を開く。
今起こった事は、明らかに現実のもの……
相談の上、暫く様子を見る事にしたのである。
学校の休憩時間──
時空は肘にあごを乗せ、手に持った純白の御守袋を眺めていた。
中には、例の神鏡が収まっている。
あのまま神社に置いておく訳にもいかず、持ち出したのだ。
勿論、中身を知っているのは時空と尊の二人だけだった。
さて、これからどうしたものか……
こいつの取り扱いもそうだが、何より伊邪那美仄にこの事を知られてはならない。
時空が八握剣を手にしたと知れば、何をしてくるか分からないからだ。
尊の台詞では無いが、注意するに越した事は無い。
時空は宙を睨みながら、状況を整理してみた。
今は神鏡の形態をとっているが、これが八握剣である事は間違いない。
信じ難いが、こいつは形態を変えられるようだ。
神鏡の方は……恐らく、仮の姿なのだろう。
それが俺が掴んだ途端、本来の剣に変容した。
明らかに、俺の何かに反応したのだ。
これが仄の言う、【継承者】とやらの証なのか……
この剣が、どんな力を持っているのかは分からない。
だがあの時の現象から見て、尋常では無い力を宿しているように思える。
仄が狙っているのも、その力なのだろうか……
もしそうなら、手に入れて一体何をする気なのだ。
いや、ひょっとして……
これは元々、あいつのものだったとも考えられる。
それを取り戻そうとしているとか……
だがそれなら、なぜ俺を継承者と呼ぶんだ?
考えれば考えるほど、深みにはまるばかりだった。
これ以上考えても仕方ない。
とにかく、これを仄に渡す事だけは阻止しないと……
時空の直感が、そう告げていた。
「どうしたの時空?何だか元気無いわね」
抑揚の無い乾いた声に、瞑想が破られる。
はっとして顔を上げると、冷ややかな目をした伊邪那美仄が立っていた。
後ろには、女子が二人追従している。
どちらの表情も、目が据わっていた。
「何かあった?」
心配そうな声の中に、探るような響きが感じられる。
「いや、別に何でもない……部活で疲れただけだ」
そう言って、時空はそっと御守袋を膝上に下ろした。
「そうなんだ……」
仄は輝く碧眼で、時空の顔をじっと見つめた。
ふいに、屋上での出来事が脳裏に蘇る。
時空は無意識に視線を逸らした。
「……分かった。元気出してね」
取って付けたように言うと、仄は目を伏せた。
そのまま踵を返し、お共を従え離れて行った。
極度の緊張で、時空の口腔はカラカラになった。
「まるで女王様ね」
昼食の買い出しから戻った尊が、ポツリと呟く。
一部始終を、何処かで見ていたようだ。
「彼女、他のクラスでも相当な人気よ。売店でも彼女の好きなパンはあっという間に無くなる。ファンが買い占めて持っていくみたい。たった二週間足らずでこの状況は異常ね。何か特別な力が働いているとしか思えない」
尊の言葉に、眉をしかめる時空。
とにかく、常人離れした奴だ。
人心を操る力なども、持っているのかもしれない。
時空や尊に、その魔手が及ばないのは謎だが……
「中庭にでも行きましょう」
「……そうだな」
尊からパンを受け取ると、二人は教室を後にした。
中庭に出ると、人気の無い木陰に腰掛けた。
「彼女、気付いてるわね」
ハンカチで掌を拭きながら、尊が切り出した。
「ああ、さっきの様子で俺もそう思った」
時空も、巨大なカレーパンを頬張りながら答える。
曲がった事の嫌いな時空は、当然のごとく嘘が下手だ。
神鏡の件は別にしても、何か隠していると見抜かれたに違いない。
ならば今後、何か仕掛けてくる可能性はある。
「とにかく気を付けましょう」
尊の囁きに、時空は小さく頷いた。
「しゅしょぉぉっ!」
突然の叫び声に、時空はパンを喉に詰まらせた。
振り返ると、誰かが手を振りながら走って来る。
剣道部員で後輩の長須根伊織だ。
二人の前に到着すると、下を向きゼイゼイと肩を震わせた。
「た、大変です!ど、道場が……大変な事に!」
血相を変え、必死に訴える。
尋常では無いその様子に、時空と尊は顔を見合わせた。
「す、すぐに来てください。お願いします!」
時空が先陣を切って駆け出す。
後続の二人も懸命に追走した。
程なく、道場の角ばった屋根が見えてきた。
時空は速度を落とさず、そのまま中に飛び込んだ。
道場に入った瞬間、思わずその場に立ち竦んだ。
道場の壁面には、練習用の竹刀が掛けてある。
部員数に予備用も含め、三十本ほどだ。
その竹刀が、全て床に落下していた。
しかも……そのことごとくが、真っ二つにへし折られていた。
時空は呆然と、その光景を眺めた。
「……ひどい」
続いてやって来た尊が、顔を顰め絶句した。
「一体誰が、こんな事……」
「更衣室の忘れ物を取りに来たら見つけて……主将に知らせなきゃと思って……あちこち探し回って……」
途切れ途切れに話す伊織の目に涙が溢れた。
「よく知らせてくれた。すまなかったな」
時空は振り返ると、その頭に静かに手を置いた。
尊がハンカチを取り出し、伊織に手渡す。
その様子を見ていた時空は、徐ろに踵を返し戸口に向かった。
目には怒りの火が灯っている。
「時空っ、待って!あなたまさか……」
尊が引き留めようとしたが遅かった。
外に飛び出した時空は、脱兎の如く駆け出した。
……許せない!
剣術の道を志す者にとって、剣は命だ。
日々、汗にまみれながら鍛錬に励む部員たち……
その大切な道具をへし折るなど、断じて許される事では無い!
誰がやったのか……
その問いに対し、真っ先に浮かんだのは一人の人物だった。
伊邪那美……仄……
見下すような視線と、凍るような微笑が脳裏をよぎる。
確かめなくては!
アイツの仕業なのか、どうかを……
時空は脇目も振らず、教室に駆け込んだ。
仄を中心に、数名の女子が談笑していた。
その前に立ち、険しい形相で見降ろす。
「あら時空じゃない。どうしたの怖い顔して?」
そう言って、仄は目を丸くした。
周りの女子も、一斉に時空の方を顧みる。
どの顔も、蝋人形のような笑顔を浮かべている。
「お前がやったのか?」
震える声で問いただす時空。
湧き上がる怒りを、必死で抑えていた。
「一体、何のことかしら?」
「竹刀だ!」
威圧的な時空の声に、皆の顔から笑顔が消える。
「お前が、剣道場の竹刀を折ったのか?一本残らず」
その言葉に仄の笑顔も消え、能面のような表情に変わる。
「何を言っているのか、さっぱり分からないけど」
そう言って、仄は肩をすくめた。
「私が何かしたというなら、それは誤解よ……今日は一日、この子たちと一緒にいたもの。授業は勿論、休憩時間も、昼食も、ずうーっと……」
ワザとらしい口調で言い放つ仄。
その言葉に、まわりの女子が一斉に頷く。
時空は、声を詰まらせた。
クラスメイトの大半が、仄に傾倒しているのは知っている。
そこにあるのは、ある種の主従関係とも言えるものだ。
主人の命令とあらば、口裏を合わすくらいは当然するだろう。
ただ……
だからと言って、今は仄のアリバイを覆すほどの証拠は無い。
屋上での一件を話したとしても、誰も信じないだろうし……
「私たち、仄様とずっと一緒だったわよ」
女子の一人が、駄目出しの一言を放つ。
結局、時空はそれ以上何も言えなかった。
拳を握り締め、ただ立ち尽くすのみだった。
仄の顔に張り付いた笑みを眺めながら……
最初のコメントを投稿しよう!