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2.動物実験です
朝(正確には朝なのかはわからないが)、ご飯を調達しようとスーパーに行こうとしたら、自動ドアの向こうから男が出てきた。
中肉中背で眼鏡をかけている男が絶妙に聞き取れる早口で私に言う。
「君!誰か人を見なかったかい?自分の部屋で実験してたんだけど、のどが渇いたから飲み物でも取りに行こうと一階に降りようと階段を降りていったら真っ暗で。電気がついてないにしろ何も見えなくなるほど暗いのはおかしいなと思って、玄関があるほうへ歩いて行ってドアを開けたら知らない街の外で。振り返ったら自分ちはスーパー!もしかしてねぼけてんのかと思ってありきたりではあるが、自分の頬を叩いてみたけどハッキリと痛くて。もしかして夢遊病にでもなったのか、だから知らない街まで歩いてきたのかと思って、周りの人に僕が変じゃなかったか聞こうとしても誰もいない。君は何か僕が変だったか見なかったかい?」
高田彩華と悲しいお別れをしてから二日たった今日、今。この早口男は現れた。
この場所はどうなっているのか、そう考えつつ男の問いに夢遊病のような動きはしていなかった。というかそもそも自動ドアのところで鉢合わせたのだから分からない。そう伝えると男は
「まぁいい。駅に行けばここがどこかわかるだろう。君、駅はどこか教えてくれるかい?」と言った。
「駅なんてないですよ。遠くにタワーとか見えますが、あそこまでは見えない壁で行けないんです」
タワーのほうを指さし、そんなこと言われても信じられないだろうと、男の顔を見ると男はそんな状況を楽しむような空気を放ちタワーが見えるほうへと歩き出す。
私はそんな男と反対にスーパーの中へ入り朝ごはん、サンドウィッチを見る。ベーコンエッグのサンドウィッチと牛乳を手に取る。
さきほどの男の行方が気になり、男が歩いて行ったほうへサンドウィッチをかじりながらのんびり歩く。
しばらく歩くと向かいからさきほどの男が目を爛々と輝かせ、小走りでやってくると私の両肩を力強くつかみ言う。
「何だいあれは!?どうなっているんだ!?君の言った通りだったよ!向こう側は見えるのに透明な板みたいなもので遮られている!」
声を張り上げる男にだから言ったじゃないですかと言う。
「面白い!!僕は動物の実験が大好きだが、こういう状況に巡り合えるなんて……。実験並みに探求心がうずく!!ここに動物がいたらさらに楽しみが増えそうだが……。君!ここに動物はいないのかい?」
ここではネズミ一匹みていない。そのことを伝えると男はがっかりした様子を示した。
「君はこの空間にいつからいるんだい?というかここは異世界といった認識でいいのだろうか?あと君呼びだと不便だから名前を教えてくれ。僕は片桐 正明」
私は昨日あたりからこの場所にいた事と名を名乗った。
異世界……、閉ざされた空間、場所のほうがしっくりくる。些細な違いだが。
昨日からと言ったのでここのことはほぼなにもわかっていないことにすることにし、今後自分が動きやすくなるためにも、片桐によかったら一緒に探索してみませんかと聞く。
片桐が満面の笑みでうなずき見えない壁……、板がどこからどこまでと調べることから始まった。
といっても私はおおよそ把握しているが、白を切る。
片桐は見えない壁に手を当てながら歩いた。
「山口さんは昨日からとこの空間にいると言ったが、何も食べてないのかい?」
ずっと無言が続いていたせいか、突然の質問に一拍遅れ返事をする。
「えぇー……、人がいないし、お金とかどうすればいいかわからなくて……」
とりあえずいい子ぶってみる。すると片桐は壁から手を放し両の手を胸の下で組んでから丸い形を描くように広げ、ここは異空間なんだからそんなこと気にする必要ないさと言う・
おおげさな身振り手振りだなと思いつつ、そうかもしれないですねと返す。
壁を伝いおおよその広さが分かった片桐はお腹をおさえ空腹を訴えた。
コンビニまで行き食べ物を調達。それをそのコンビニのイートインスペースで食した。
「片桐さんはこの場所に来る前は実験をしていたと言っていましたが、何を実験していたんですか?」
そう聞くと片桐はペットボトルから口を放し、早口でしゃべる。
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