嘘の人間不信

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嘘の人間不信

 嘘をついてない人なんかいない。今、目の前にいるあの人も、あの人も、その人もこの人も、こっちだってあっちだって、皆嘘で生きている。新学期、まだ、慣れない友達と過ごす周りの人間は、皆にこにこと偽りを並べて生きているのだ。私はそんなものと付き合うつもりはない。付き合わなければ、苦しまずに済む、ひとりが一番。ひとりが大人。ひとりでいい。  もう、大学生活は一カ月が過ぎただろうか。受験を勝ち抜き、ようやく希望の大学へ進学できた私は、ここでやっと心穏やかに過ごしている。高校生活の思い出なんか捨て去って、今、私はやっとひとりの幸せを手に入れたのだ。誰とも干渉せず、静かに、ただただひとり好きなことを学ぶ。誰の目にも入らずに、地味に、安全にここで生きることを私は望んでいたのだ。  友達なんか作らない。その方が幸せだ。そうだ。  でも、困ったことに、毎日私の目の前に来て、声を掛けてくる綺麗な女子がいる。時間は決まって、お昼前。私は無視をし続けているのに、諦めてはくれない。もう、一カ月経ったのだし、そろそろ諦めてくれただろうか。今日は、声を掛けられることなく、外のベンチにたどり着けた。やっと、理想の学生生活だ。私は弁当の風呂敷をふわりと開けて、静かにおかずを頬張る。  すると、安堵から一転、目の前から、聞き覚えのある声が聞こえてきてしまった。
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