未来ではなく

1/1
前へ
/11ページ
次へ

未来ではなく

もしもタイムマシンがあったら。 過去現在未来。 常に一方通行ではあったけど、ずっと続いている。 過去があるから現在があり、現在はすぐに過去となって、いずれ現在となる未来へと続いていく。 でもそれは、過去と現在と未来が時間という同じレールの上に乗っているというだけに過ぎない。 もしもタイムマシンがあったら、僕は未来ではなく、過去に行ってみたい。 レールからこぼれ落ちていったものーー、 現在に伝わらなかった過去の何か。未来へと繋がることのない、これから滅んでゆく現在の何か。 そういうものを、知りたい。 例えば、民族と共に滅んだ言語、 例えば、歌い継がれずに失われた歌、 例えば、焼かれてしまい、今は決して読むことの出来ない書物、 例えば、テクノロジーの進化によって駆逐された古い技術、 例えば、人間や環境に絶滅させられた動植物、 いかにネットを駆使して検索しようとも、もう触れることの出来ない、それでいてかつて確かに存在していたもの。 だけど現実は、たった先週壊れて捨ててしまったお気に入りの珈琲カップにすら、もうおいしい珈琲を注ぐことも、それを両手で包んで手を温もる事も出来ない。 今日僕が目覚めた時ですら、昨日まで世界のどこかで続いていたものが、知れず失われているかもしれない。 だから僕は、これからも未来ではなく、過去に憧れ続けるのだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加