思い出は食べものでできている

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思い出は食べものでできている

ただいま、におかえり、と返した父が、小さく手招きをした。 「あなた好きでしょう。差し入れ」 差し出した手のひらに、ころりと小箱がのせられる。色とりどりのチョコレートが入った、美しい箱だった。 「ありがとう。あとで食べるね」 「仕事頑張ってね」 「うん」 にっこり笑って、笑顔が崩れないうちに部屋に駆け込んだ。 父はたまに、あなた好きでしょう、とチョコレートをくれる。でも、どちらかと言えば好きなのは姉の方。 昔、習い事の送り迎えで父がくれるおやつといえば、スルメかスースーするのど飴ばかりで、姉と一緒に駄々をこねた。 姉はチョコレートを、わたしはチョコチップクッキーをねだったのに、記憶が混ざったのか、毎回チョコレートをくれるようになった。 おしい。クッキーが足りてない、と思いつつ、もらえるだけありがたいので黙って食べていた。それが小学生のとき。 もらった小箱をそっとあけると、板チョコが三枚、濃さの違うトリュフが二つ、ホワイトチョコレートが一つ、綺麗に並んでいた。 やっぱり姉と混ざっているらしい。ホワイトチョコレートは苦手なんだけどな。 あなた好きでしょう、なんて言うくせに、柑橘系が好きなの、何回言っても覚えてくれないんだから。 このお店だって、わたしがまだ小学生のときに美味しいねって言ったところだよ。 高校生から今まで、ここも美味しかったよ、あそこもおすすめだよってたくさん言ってきたのに、全然覚えてない。まったくもう。 ……あなた好きでしょう、なんて。 そんなこと言われたら、ありがとうしか言えない。 もうとっくに成人して社会人になったのに、父にとってわたしはまだ幼い女の子のままだなんて、あんまりまぶしすぎる。
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