カタルシス

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カタルシス

私はゆっくりと目覚めた。 私は何処かの和室で寝かされていたようだ。 そこは藺草の香りが心地よく、とても綺麗な部屋で。 少しだけ開いた障子から月明かりと桜の花びらがきらきらと部屋に入り込んでいた。 随分と寝ていた気がするし、少しだけ仮眠を取っていた気もする。 しかし頭に霧がかかったようにぼんやりする。 その霞をゆっくり振り払うように起き上がる。 身体は軽く、どこも悪くない。 いや、髪の毛がとても長くなっていた。 何だか少しばかり、ぞくりとした。 そんな時、障子がゆっくり開いた。 風にのって、さらに桜の花びらが部屋に舞踊った。 そして──黒のスーツを着た男の人が部屋に入ってきた。 その人は月光を背にしていたので顔がよく見えなかった。 でも、その男性はとてもすらりとして──黒髪が綺麗な男の人と言うのが解った。 そう、それは、その人は。 私のよく知った人に似ていた。 私の目が月明かりに慣れてきて、その男の人の顔が少しずつ見えてきた。 その人は、私が瞳をとじる前にとても優しい眼差しで見てくれたあの──男の子と良く似ていると思った。 私がどう声をかけていいか分からずに戸惑っているとその人は。 「──おはようございます。ボクずっと待っていました。起き抜けに申し訳ないのですけど──」 そう言いながら、私の傍に近づいてきた。 ああ、とても綺麗な人だと思った。 儚げだけど、その歩みには──佇まいには。 凛とした強さを感じた。 そしてその人は。 私の手の平に、それは年季が入った黒と白の猫のキーホルダーをゆっくりと握らせてきた。 その触れた手の暖かさに、どうしようもないほどの愛しさがこみ上げてきた。 そして──。 「ボクと結婚して下さい。昔も、今も、これからも。好きです。愛しています──姫子さん」 その優しくも力強い眼差しに、言葉に、私は嬉しくて涙が溢れた。 私は──ずっとこの人の傍で生きたいと思った。
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