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 放課後、コンビニへ入店した私は、かねてより念願だったフィフティー ワン アイス期間限定全部載せ欲望スペシャルをひとつレジへと差し出す。 「九百九十円になります」  学生に躊躇(ためら)わせる金額に驚愕(きょうがく)を覚えながら、今朝おじさんに貰った封筒から一万円札を取り出し、支払う。 「一万円入ります」  コンビニのイートインスペースに腰を下ろし、ガラス越しに眺める世界はいつも、スクリーンに映し出された物語の世界だ。見ず知らずの人達が、各々(おのおの)の役を演じ振舞(ふるま)っている。どんな運命が待ち受けるストーリーなのかさえ知らぬままに。  あのおじさんは、クレジットカードの支払い明細を目にする(たび)に、今日あった出来事を思いだすことだろう。口の奥に苦味を感じるとき、小憎(こにく)らしい女子高校生の姿を思い出すのだ、襲った獲物から反撃を受た、傷ついた捕食者のように。命永らえた(おのれ)の幸運さえも知らぬままに。  甘いフレーバーのもたらす幸せなひと時をすごした私は、レジ前にある『難民の子供たちを、あなたの善意で助けてください!』と、書かれてある募金箱に、残った全額を封筒ごと突っ込んだ。良かったね、おじさん。あなたのお金が、子供たちの命を救うんだよ。  自動ドアが開き、街へと歩みだした私の髪を強い風が揺らし、花冷えの空気が冬服を(まと)身体(からだ)を震わせた。   〈了〉
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