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Ⅵ
私は、人生最大の危機から解放された喜びに微笑さえ浮かべるおじさんの後ろをしばらくついて歩くと、声を掛けた。
「まだ何か?」
ぎこちない微笑を向けるおじさんに、私は無言で手のひらを差し出す。
途端に、訝しむおじさんの表情が曇る。
「誠意を見せてください」
「謝罪は十分にしたでしょう」
「さっき、何でもするって言いましたよね? 気持ちなんて要りませんから。形にしてもらえませんか」
「金か? 金なのか! 恐喝目的で俺を嵌めたのか!」
私は、憤り怒りに震えるおじさんのクレジットカードから、キャッシング貸付額ぎりぎりのお金を借りさせた。
「五十万か、しけてんな。まぁ、今のご時勢じゃしょうがないか……」
「こんなこと続けてたら、いまに酷い目に遭うぞ!」
封筒のお金を数えながら立ち去る私の後姿に向け、おじさんは負け犬じみた悪罵を投げかける。
「必要なら、受け取り書いてあげますよ!」
うそつきのくせに! 振り返る価値さえない。これでやっとチャラなんだからね。誠意の形を残しておかないと、おじさんはいつまで経っても罪人なんだ。鉄道会社と警察の日報にはおじさんのこと、ちゃんと記録されてるんだから。おじさんこそ、火遊びも程々にね、そのうち火傷するよ。
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