1/1
前へ
/13ページ
次へ

 癒されない家庭と職場との往復に、圧力は高まるばかりな風船おじさんたちの集団に囲まれる私は、いまどき珍しい清楚なイメージで名を()せる名門私立高校の制服に身を包み、触れれば折れてしまう清純な雰囲気を漂わせる。世の中の醜いものなど何も知らない、さしずめ道端(みちばた)に咲いた可憐な月見草よね。そんな、いかにもステレオタイプな少女らしい私と目が合ったおじさんの濁った瞳は死んだ魚のよう。妄想ならお好きにどうぞ、香水臭い隣のおばさんの存在を忘れる手助けくらいにはなれるでしょう。    爆弾を抱えた大人たちの集団にまぎれたマイノリティもちらほら見える。私のような学生が、肩身が狭そうな素振(そぶ)りで窓の外を眺めている。マジョリティの時間が訪れれば、若者らしい怖いもの知らず特有の無知のナイフをギラつかせ、会社帰りの弱った獲物(えもの)威嚇(いかく)するのよね。    駅に停まったわ。新たな風船が押し込まれ、唯一例外的に配慮されていた少女たちにも肉の壁が押し迫ってくる。(あらが)おうにも知らない者が容赦などするはずはなく。可憐に咲いた花を踏み散らす。おじさんだって嫌なのだ。でも、仕方ないじゃないか、後ろから押されているんだから。そんな言い訳が聞こえる。    目の前の少女が、新たに詰め込まれたおじさんたちの玉突きによって、わずかな隙間を埋められた。公立高校の気の弱そうな少女は、生来(せいらい)()真面目(まじめ)さしか生きる(すべ)を持たない哀れな生き物だから、高校時代の三年間、頼りにするものもなく社会の荒波に揉まれ潮に(さら)されて、短い命を削られ続けるのでしょう。彼女の中で沸々(ふつふつ)としたマグマが煮えたぎろうとも、現実という名の無残(むざん)の前では、四肢を引き裂く痛み以外の運命は訪れない。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加