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Ⅲ
哀れな少女は俯き、小さな身体を更に小さく強張らせている。大人しそうな髪が、羞恥に耐える歪んだ表情を隠している。まわりを囲むのは汗ばんだ、顰めっ面の顔顔顔。皆、視界外の少女など意識にものぼらない。この中の誰かの手が、押し込められ身動き取れない初々しい肉体を味わっている。その鋭敏なる触覚は、少女の形作る肉体の形状すべてを、下着のつけた細やかな線と滑らかな肌の感触と、敏感な突起にいたるまで、脳内に書き込んでゆく。少女は声をあげることも出来ず、体臭と口臭に満たされ澱んだ空気の底で、湿り気を帯びた肌の谷間を這う不快な指の感触に破裂しそうな感情を、脳細胞に鋭い刃物で赤黒く刻み込むよりほかに手立てを持たないでいる。
やがて、躊躇いもなく下着の中へと進入した太い指は、少女の柔らかな肉の抵抗を滑って。――そんな異様なる白日の凶行を目の当たりにする私の背筋を、心地よい快感がぞくぞくと突き上げてくる。――私、この子に決めた。
「きゃぁ、きゃあ! やめてください! 触らないでください!」
突如、声を張り上げようとして少し失敗したけれど、すぐに気を取り直して定型文を読み上げるように活舌に気を配りながら声をあげる。と、今まで素知らぬ振りをしていた大人たちが一斉に私に注目し、作り出された泣き顔を見ただけで、予め示し合わせてでもいたかのように、全てを理解する。途端に、近くにいたおじさんたちの目の色は変わり、お互いの顔を冷たい目線で観察し獲物を探し始める。
「その人です!」
私が適当に叫んだ方向に居たおじさんたちは一気に色めき立ち、目には困惑の色が差す。狂気の回路が駆け巡り始めたのはおじさんたちだけではない。恐怖の叫びから逃れた、――そう思った人々が獲物の行方を探す猛禽の鋭い視線で周囲のおじさんたちを睨みつける。
「お前か!」
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