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Ⅴ
駅員さんに、「警察に連絡しますけど、証言してもらえますよね?」と念を押されても、「私じゃないんです!」と相変わらず言い訳を繰り返しているおじさんが、私は哀れにさえ思えはじめていた。次はこのおじさんを幸せにしてあげようかしら……。そんなことを考えながら、今まさに一家離散、懲戒解雇、ローンの返済、自殺で保険はおりるだろうか、そんな言葉が頭の中を駆け巡っているおじさんを眺めていると、窓の外に見覚えのある人物が居ることに気付いた。痴漢に遭っていた、あの女子高校生だ。どうして、まだここに? 学校遅刻しちゃうよ?
痴漢に遭っていた女子高校生は、駅舎内でうなだれ、駅員さんに無実を訴え続けているおじさんをジッと睨んでいる。その目には明らかな、殺意にも似た鋭さが感じられた。
「……」
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