チューリップの意味

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「タクミが来るまで、先にビールでも飲んで待ってよう。」 そうケンジが言った。 ケンジとマリアは、天王寺の駅前の居酒屋で、タクミを待っている。 タクミが、最近、ちょっと変だというので、どんな風に変なのか、会って聞いてみようと、マリアがタクミに声を掛けたのだけれど、マリアが、ひとりじゃ不安なので、ケンジも誘ったのである。 「絶対、タクミ、何かあったんだよ。だって、電話した時、あたしに敬語なんて使うのよ。おかしいでしょ。」とマリアが言った。 「ふうん。たまたまじゃないの。」 「ううん、あれは違うわ。どことなく元気もなかったし。」 「そうか、でも今日、会って話をすれば、原因も解るよ。まあ、取りあえず、乾杯。」 生中を、1杯飲み終わるぐらいに、タクミが現れた。 「おう、どうだ。何か元気がないって聞いたから、気になってさ。」 「ありがとう。いや、元気だよ。でも、心配してくれて、ありがとう。」 「もう、先にやってるよ。」 「ああ、ここのぬた和えは、最高に酒に合うんだよね。」 「ははは。お前は、ぬた和えが好きだなあ。」 「この前さ、金沢に行った時さ、ぬた和え頼んだんだよね。そしたら、鯖が入ってたんだよね。あれは、ひょっとしたら、この店のぬた和えを越えたかもしれないな。うん、あれは美味かったな。」 「へえ、それは俺も食べて見たいな。タクミが絶賛するなら、そりゃ美味いんだろうな。」 と、いつもの調子で話し出したら、マリコが止めた。 「いやいや、ちょっと待ってよ。おかしいでしょ。ねえ、おかしいでしょ。なんで、タクミの頭について触れないの。なんで、それに触れずに話が出来るわけ。ねえ、タクミ、その頭どうしたの?」 「どうしたのって?ああ、これ?」 タクミは、頭に手をやって頭に乗っかっているチューリップを、指さした。 タクミの頭のてっぺんから、赤いつぼみを付けたチューリップが1本生えていたのだ。 「やっぱり、おかしいかな。」 「そりゃ、おかしいでしょ。」 「うん、僕もおかしいかもしれないなと思ってさ。というか、僕の事を見たら、みんなビックリするかなと思って、帽子に細工をして、頭からチューリップさんが生えてるんじゃなくて、帽子の飾りみたいに見えるように工夫してみたんだよね。ほら、この野球帽のさ、後にチャック付けたんだ。んでもって、チューリップさんを挟んだら、そのチャックを締めると、ほら、帽子の飾り物に見えるでしょ。これ苦労したんだよね。ほら、僕、裁縫とかできないからさ。」 「いや、その帽子のことは、どうでもいいねん。そのチューリップの方が、知りたいでしょ。」 「ああ、これか。なんで、チューリップさん生えて来たんだろうね。」 「いや、生えて来たんだろうねって、タクミ知らないのか。」と、ここでケンジも、たまらず聞いた。 「ああ、2週間ぐらい前だったかな、頭に何かしこりみたいなものできたなと思っていたんだ。それがさ、毎日毎日、伸びてきたわけよ。始め、何だろうって、思ったよ。何が起こったのかってね。でも、1週間ぐらいしたらチューリップさんだって解って、ちょっと安心したよ。病気じゃなかったんだよね。」 「安心したって。」マリコが、あきれて、ボソリと呟いた。 そんな話をしていると、お店の女の子が注文を取りに来た。 「じゃ、肉のスタミナ焼きと、それから、ソーセージね。」 タクミが言った。 「おい、ぬた和えは、注文しないのか。」ケンジが聞いた。 「ぬた和えか、、、もう、食べないことにしたんだ。」 「え、なんで。あんなに好きだったじゃない。」マリコも不審に思ったようだ。 「だって、ぬた和えって、ネギとかワケギで作るじゃん。あれって、植物でしょ。なんか、植物食べるの可哀想だなって、思ってさ。だって、チューリップさんも植物でしょ。だったら、ネギもチューリップさんも親戚みたいなものじゃない。なんか、ネギ食べてるの、チューリプさんに申し訳なくてさ。」 「えっ、じゃ、タクミ、ネギ食べないの。ていうか、ネギも植物だけど、ほうれん草とか、玉ねぎとか、そんなのもあるじゃない。それも植物よ。」 「ああ、だから、チューリップさんが生えてから、植物は食べないことにしているんだ。もう、毎日、肉ばっかりだから、少しヘビーなんだけれどね。」 「じゃ、米も、パンも食べないのか。」ケンジが、聞いた。 「ああ、だって、可哀想でしょ。チューリップさんが。」 タクミは、それが当然の理屈であるよう答える。 「じゃ、肉はいいの?肉も、可哀想なんじゃない。牛さんが、殺されるんだよ。ねえ、肉は、可哀想じゃないの。おかしいでしょ、その理屈。」と、マリコが、ややムキになって言う。 「だって、牛とか豚は、仕方ないでしょ。あれはね、たぶん、神様が、人間が食べるために、わざわざ作ってくれたものだと思うんだ。だから、神様が、食べても可哀想じゃないって言ってくれてると思うんだ。」 「その根拠は、どうなの。聖書か何かに書いてあるとか。牛とか豚は、人間が食べる用に、作ってくれたという根拠はさ。」ケンジが、追及する。 「いや、根拠って、、、ただの勘だよ。」 「ただの勘って、、、。」ケンジとマリコが、あきれたようにお互いを見た。 「それにしてもさ。それどうなってんの?どこから生えてるの。」マリコが、チューリップの生え際を横から覗き込んだ。 「うん、頭蓋骨から生えてるんだ。実はね、僕も、どうなってるのかなと気になってさ。さすがにね。で、近所の医者に行ったんだ。じゃ、レントゲンを撮りましょうってなってさ、そうしたら、ビックリだよ。ほら、チューリップさんってさ、根があるでしょ。根と言うか球根がさ。でも、このチューリップさんは、頭蓋骨から直接、茎が出てるんだ。ミステリーだよね。」 「そりゃ、ミステリーだけど、お前、よくそんな平気でいられるね。」 「ほら、もう2週間経つからさ、慣れて来たのかな。」 「それで、どうなったの。」 「どうなったのって?」 「医者だよ。医者は何て言ってるの。」 「ああ、今度、大学病院で、検査しましょうっていうんで、逃げて来たんだ。だって、こんなの大学病院に行ったら、絶対にチューリップさん、切られちゃうよ。決まってるよ。」 それを聞いて、マリコが言った。 「切られちゃうって、あなた、それを、そのままにしておくっていうの。それ、おかしいでしょ。そんなの頭に乗っけて。普通、切るでしょ。」 「そうかなあ。でも、頭蓋骨から直接生えてるんだよ。言うなら、僕から生えてるんだ。詰まりはさ、それは僕なんだよ。このチューリップさんは。そう思うんだ。」 「大丈夫か。」ケンジは、タクミの意見を否定することが出来なかった。そう思い込んでいるタクミを傷つけたくなかったんだ。 「ほら、この手も足も、これは僕だよね。だって、僕から生えてるから。そう考えると、このチューリップさんも、僕から生えてるんだもん。それは、僕でしょ。」 マリコは、ただ、タクミを見ていた。 「と言うか、最近は、本当の僕は、このチューリップさんで、ひょっとしたら、この僕だと思っている僕は、僕じゃないのかもしれないと思ったりもするんだ。チューリップさんが、僕で、僕の身体は、手と足と同じみたいな。」 「ちょ、ちょっと。しっかりしてよ、タクミ。あなたは、あなたでしょ。今、あたしの目の前にいるタクミが、タクミ自身なのよ。頭のチューリップは、ただの花なのよ。それに、さっきから、チューリップの事を、チューリップさんなんて、さん付けしてさ。おかしいよ。」 「だって、呼び捨てしちゃ悪いだろう。この前、チューリップさんの名前を考えたんだ。マリコっていう名前どうかなって思いついたんだ。」 「や、やめてよ。なんで、あなたの頭のチューリップに、あたしの名前付けるのよ。それだけは、絶対に嫌だ。」 「なんだ、ケチなんだなあ。赤いチューリップだから、マリコって似合いそうだなって思っただけだよ。」 「いいから、そのマリコって名前付けるのだけは止めて。」 「うん。付けないよ。というか、名前は、付けないことにしたんだ。だってさ、チューリップさんに名前を付けたら、名前を付けた時点で、チューリップさんの人格が出来ちゃうでしょ。マリコって名前を付けたら、このチューリップは、マリコっていうチューリップになっちゃう。詰まりはさ、僕とチューリップさんっていう関係になるわけ。僕とチューリップさんは、別の人格ってことだよ。でも、チューリップさんは、僕なんだから、名前付ける必要なんて無いんだって解ったんだ。だから、チューリップさんの名前を敢えて付けるなら、タクミってことになるのかな。なあ、タクミ。」 そう言って、タクミは、チューリップを、愛おしそうに撫でた。 「もう気持ち悪いから、止めてよ。」 マリコは、チューリップを撫でるタクミの手を無理やり下した。 「でもさ、何でチューリップ生えたんだろうね。何か、意味があるのかな。」 ケンジが、腕組みをして、落ち着いた声で言った。 「チューリップに意味があるとは思えないわ。」マリコは、イライラしていた。 「どうしたの。マリコ。もっと、ゆったりとした気持ちで考えなきゃいけないよ。僕は、思うんだ。これって進化じゃないのかなってさ。僕は、人間が進化して行く中での、進化第一人間なんじゃないのかなってさ。だって、チューリップが頭に生えてから、人と争うことが無くなったんだよね。明らかに穏やかな気持ちが僕の心に目覚め始めているんだ。これは、進化だよ。というか、悟りの境地に近いのかもしれない。」 「このチューリップのどこが進化なんだ。」ケンジはもう、チューリップをどうしようということも考える気力が失せて、ただ、タクミの気持ちを知りたくなっていた。 「だってさ、人間の世界ってさ、苦しいでしょ。うまくいかないことが多いよね。これって、人間の欲が原因じゃないかなと思うんだ。人より、あれが欲しい、これが欲しいってね、いつも、何かを欲しがってる。だから、争いも怒るんだよね。お釈迦様も言ってるらしいじゃないか、欲を無くせってね。ある時、思ったんだよね。この世にいる生き物の中で、欲が一番深いのは、人間じゃないかってさ。人間が一番欲深い。ということは、人間が一番罪深い存在じゃないかってさ。ほら、犬とか、そういう生き物って、人間ほど欲がないじゃん。あるとしたら、食べたいなとか、寝たいなとか、散歩したいなとか、その程度でしょ。ということは、人間より、ずっと欲を捨てるということに近いんじゃないかってね。そういう意味では、人間より悟りに近いよ。その理論で言うとさ、ミジンコなんて、最高に悟りに近いと思うんだ。ミジンコなんて、何も考えてないからね。ということは、欲もないと思うんだ。ただ、生きてるだけ。詰まりは、もう生きてるだけで、欲を捨ててるんだ。どうよ、ミジンコ、偉いと思わないか。んもってさ、チューリップさんていうのもさ、欲が少ないと思うんだよね。水が欲しいとか、日光に当たりたいとかさ、その程度だもんね、たぶん。ということは、僕も、チューリップさんのようにならなくちゃいけないんじゃないかと思ってね。」 「ふーん。それで。」もう、ケンジは、タクミに逆らう気持ちは起きなかった。 「だから、悟りに近い存在に近くなっていってるってことさ。人と争わない、あれが欲しい、これが欲しいって思わない。そういう存在に近くなっているということだ。この人間世界の人が全員、欲を捨てて、あれが欲しい、これが欲しいって思わなかったら、どうなると思う。戦争のない、争いのない世界になる訳。その第一号が僕な訳だ。戦争のない世界が実現できる人間になるって、これは間違いなく進化と言えるだろう。なあ、そうだろう。」 「そうだな、そういう考え方もあるな。」 ケンジも、そのチューリップのお陰で、人が穏やかになって、争う事も無くなって、戦争も無くるなら、チューリップを敢えて、切る必要もないはずだ、というより、みんなチューリップを頭に乗せるべきなのかもしれないと考え始めていた。まあ、そう考えるのだが、何故、チューリップなのかという疑問は消えない。 神様というものが存在するなら、どうして、進化の段階で、頭にチューリップを乗っけることを思いついたのだろう。 別に、チューリップを乗せなくても、普通に、素直に、進化させればいいだけの話だ。 なのに、何故、チューリップなのか、なにか、そこに、この問題の答えがあるのではないだろうか。 「何故、チューリップなのか!」 ケンジは、既に、タクミの頭にチューリップが生えていることを受け止めていた。 チューリップが生えていることは、まぎれもない事実だからだ。 それを受け止めたうえで、その意味を探ろうと気持ちが変化していたのである。 「しかし、大変だなあ。チューリップが生えてたら、寝る時とかどうするんだ。」 「そうだよ。結構大変なことはあるね。寝る時はさ、枕の上のところにクッションを置いて、チューリップさんに負担が掛からないようにしたりね、初めの内は、水もやってたんだけど、どうも水は必要ないみたいなんだ。僕の血を栄養にしてるのかな。どうなんだろう。」 「あー、もう、思考能力が無くなったよ。タクミの事、心配して集まったけど、もう心配するの、やーめた。だって、タクミは、ちゃんと生きてるし、それでいいか。」マリコが、ため息をつきながら吐き出すように言った。 「ああ、そうだな。」ケンジも頷いた。 「ありがとう、2人とも心配してくれて。僕は、大丈夫だよ。」 そんなことがあって、飲み会は、解散した。 助かったのは、この居酒屋が天王寺だということだ。 タクミが、頭にチューリップを生やしていても、別に、周りのお客は、何とも思ってなかったようだ。 天王寺には、変わった人も多いからね。 ただの、変な格好をした人ぐらいにしか見られていなかったのだろう。 そんなことがあった1週間後、ケンジにマリコから電話が入った。 「ねえ、やっぱりタクミは、変だよ。何かさ、田舎にいるっていうのよ。畑にゴロリと寝てみたいっていうのよ。やっぱりチューリップには、土が必要だって。ねえ、ちょっとヤバくない?」 「そうだな。ちょっと変だな。よし、今から様子を見てくるよ。タクミの田舎ってどこだった?」 ケンジは、急いで、電車に乗って、タクミの田舎と言う和歌山の町に向かった。 紀伊山脈の麓の田園が広がる風景は、一瞬、ケンジの気持ちを穏やかに迎え入れてくれた。 菜の花が咲き始めた畑に、爽やかなマイナスイオンを含んだ風が吹き抜ける。 ケンジは、大きな背伸びをして、深呼吸をした。 「いや、こんなことをしてられないよ。タクミを探さなきゃ。」そう呟いて畑を見渡すと、果たして、タクミは、畑の真ん中にゴロリと横になって目をつぶっている。 「おい、タクミ、大丈夫か。」ケンジは、タクミを覗き込むようにして、大きな声で言った。 「ケンジか。どうしたの?」 「どうしたのって、タクミの様子が変だって聞いたから、やってきたんだ。」 「そうか。ありがとう。でも、別に変じゃないよ。」 「それならいいけど、お前、何やってんだ。」 「ああ、こうしていると、何故か落ち着くんだ。やっぱり、チューリップさんには、土が必要なんだな。」 「いや、土が必要だって、お前は、人間だろう。」 「僕は、果たして、人間なのだろうかと思うんだ。本当は、植物なんじゃないかって、最近、そう思うようになったんだ。だから、チューリップさんが、土が欲しいって言った気がして、ここに来たんだよ。ほら、こうして寝ていると、僕もチューリップになった気がするんだ。そうだ、悪いけど、もう、そろそろ寝てもいいかな。妙に眠たいんだよね。ああ、気持ちがいい。」 ケンジは、焦った。 焦る理由は解らなかったが、ただ、このままタクミを眠らせたら、こっちの世界に戻ってこないような気がして、ただ、漠然と焦った。 ケンジは、タクミを無理やり起こして、タクミのチューリップに手をかけた。 「こんなものが生えたから、いけないんだ。」 そういって、思いっきりチューリップを、引っこ抜いた。 「おい、何をするんだ。ああーっ。僕のチューリップさんが、、、。」 タクミは、頭を抱えた。 「ごめん、タクミが、だんだん変になっていくのが、耐えられなかったんだ。」 その気持ちは真実だ。 すると、タクミは、急に明るい声でケンジに言った。 「あれ、急に、晴れやかな気持ちになってきぞ。晴れやかというか、気力が出て来たっていうのかな。元気が出て来たというか。どうしたんだろう。」 「本当か。やっぱり、このチューリップが、タクミの変になった原因だったんだよ。良かったよ。タクミが元気を取り戻して。」 「ああ、ありがとう。今までの僕は、どうしてたんだろう。そうだ、ちょっとビールでも飲みに行くか。」 「ああ、祝杯だ。」 タクミとケンジは、その足で、大阪に帰った。 和歌山の田舎の畑に、もぎとられたチューリップが、赤い色を鮮やかに放って捨てられていた。 そんなことがあって、2週間ぐらい過ぎたころである。 ケンジは、妙なことに気が付いた。 自分の頭にコブが出来ていたのだ。 そして、それが毎日大きくなっている。 それがなにか、ケンジには解っていた。 チューリップだろう。 そうに違いないと思った。 「ちょっと、ケンジ。テレビを点けてみて。頭のチューリップの話題で持ちきりよ。っていうかさ、あたしの頭にもチューリップが生えてきてるのよ。」 「マリコにも、生えてきたのか。俺もなんだ。」 ケンジは、テレビを点けると、全世界の人の頭にチューリップが生えだしているという。 そして、専門家が、解説をしていた。 「これは、ある意味、進化していると言わざるを得ないでしょう。新しい人類に変化しようとしているのです。」 「マリコ、俺たちも進化しているのか。」 「そうかもしれないわ。そういえば、あたしも、最近、イライラすることがなくなったの。」 「やっぱり、進化か、、、、。俺、タクミに悪いことしたのかな。」 「ねえ、あたしのチューリップ、黄色みたいなの。あーん、ちょっと可愛いのよ。」 「俺のは、白だよ。でも、タクミの事が気になるなあ。」 「もう、いいじゃない。タクミのことは。あー、早く花咲かないかな。」 そんなことがあって2週間後、タクミは、大阪城の天守閣に立っていた。 「これは、一体、どういうことだろう。大阪の町がチューリップで溢れている。人間がいないじゃないか。俺だけ、人間だ。」 人間の身体は、全員、土に返って、その上にチューリップが綺麗に咲いていた。 人間は、タクミを除いて、チューリップに変わってしまったのだ。 《 人間には見えない空の上の話 》 「神様、人間をチューリップに進化させたんですね。」天使が言った。 「おお、そうや。これで戦争もなくなる。平和じゃのう。」 「素晴らしい世界ですね。さすが神様です。」天使が感激の涙を流した。 そこへ、愛の女神ヴィーナスが裸でやって来た。 「ほら、ヴィーナスちゃん、お前の望み通り、地球全体を、お花畑にしてやったで。どうや、ええ、どうや。」 「えーっ。あたし、そんなお願いしてたっけ。あ、そう言えば、ワイン飲み過ぎて酔っぱらってた時、チューリップのお花畑見たーい。なんて、神様に甘えちゃったかも。」 「そうやで、ヴィーナスちゃんのお願い聞いてやったんやで。そやから、なあ、解るやろ、わしのコレになってくれるわな。約束したもんな。それにしても、ええ乳してるなあ。」 と言って、小指を立てて、「ぐふ、ぐふ、ぐひひひー。」と、イヤラシイ顔で笑った。 「もう、いやーん。神様の、エッチ。」 その会話を聞いた天使は、「あほらし。」と呟いて、静かに、その場を立ち去った。 人間が、進化して、あたらしい地球が、生まれた瞬間の話である。
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