19.潜入(クリス視点)

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19.潜入(クリス視点)

ーー数時間前 ダニスとクリスは予定通りに、クリスの部下を使ってわざと捕まり牢屋へと入っていた。 当然持っていたものは全部押収され身一つ。 確かに警備の厳しい城に潜入するには、これが1番簡単だろう。 しかし、牢屋に入り何もできないこの状況から一体どうするのかと、クリスは疑問だった。 牢屋番は確かにそこまで人員を割いていないので手薄ではある。交代まで時間があり、この牢屋を抜ければ兵1人なら直ぐに何とかなるだろう。 クリスは、チラリと向かいの牢屋に閉じ込められてるダニスを見た。 ダニスは、こちらの視線に気づいてはいるのだろうが、反応する様子はなく至って普段と変わりない。 相変わらず何を考えているのか分からない男だ。 暫くたつと、牢屋番の男がうとうとし始めていた。 ほぼやる事がない仕事だけに眠くなるのはわかるが、もしいつもの状態で見つけたなら、クリスは叱り飛ばしていた所だ。 そこで、ダニスがやっと動き出した。 ダニスは自分の靴底を見ると、そこから細い針金みたいなものを出してきた。 クリスは驚かされる。 確かに牢屋に入れる際の検査でチェックしない。 ダニスは器用に針金で手錠を外すと、牢屋の鉄柵の前に立った。 「ここからどうするつもりだ?」 クリスは、牢屋番に聞こえないように小声で話しかける。 「……まぁ、色々やり方はあるんだが……」 一つではないのかと驚く反面、牢屋について改めて改善しなければいけない、とクリスはため息をつきたくなった。 ダニスは、牢屋の鉄柵を軽く手でコンコン叩く。 牢屋番は眠りこけているのか、反応しなかった。 次にダニスは、視線を鉄柵が張られている地面と天井を見た。 クリスは何を確認しているのかと訝し気に見る。 「クリス、お前その状態で力は入るか?」 「?……持てる範囲なら可能だが、それがどうした?」 手錠を付けられているとはいえ、握れない訳でもない。 ただ両手を広げる事は難しいだろう。 クリスはダニスの質問の意図が分からずにいると、それなら……と指示を出していった。 まず、牢屋の鉄骨を掴む。 そしてそのまま目一杯力を入れて柵を上に上げろと言われた。 鉄柵だけに、当たり前だが重い。 顔まで踏ん張りで力が入った。 「くっ!」 力尽くで上げた柵は、少し浮いた様に感じて地面を見れば柵が刺さっていた穴から外れている。 ダニスは、そのまま後ろにズラせと言って、その通りすると途中で流石に一旦休憩と下ろした瞬間、鉄柵は見事に横に倒れていった。 鉄柵が派手に倒れる音で、寝かかっていた兵の男はやっと気付いて、やってきては驚いた顔をして、声をあげようとした。 クリスは、一瞬で背後に立つと手刀で男の後頭部を叩いて気絶させる。 腰に掛けている牢屋の鍵を手にすると、クリスはダニスの方に投げた。 「こんな脱走の仕方があったとはな……」 クリスは、一部隊長としてあっさりと抜けて出せてしまった事にため息をついた。 「なんでも作る上での仕組みがあるものだ。まぁ二度も使える手でもないが」 ダニスは、涼しい顔で始終を見ては、鍵を受け取って中から牢屋の鍵を開けて出た。 クリスも手錠を外すと、牢屋番の机の近くに置いてあった、元々の自分の剣を持った。 ダニスもコートと拳銃を取る。 「さて、ここからが本番だぞ」 「言われなくても分かっている!」 牢屋の出入り口に人の気配がない事を確認して、扉を開ける地下牢から上がる階段に続いていた。 クリスが先に上がって登りそれにダニスもついてくる。 城内を把握しているのは、クリスの方だ。 先に兵士が居ない事を確認しながら階段のを上り切ると、入り口で見張ってる兵士が手でクリスの行先を遮った。 クリスは、反射で身構え剣に手を添える。 「クリス隊長……王子なら客室だそうです」 入口を見張っていた兵士がボソリと呟いた。 クリスはよく見ればその兵は、自分の隊の兵だった。 どうやら、抜け出す時に手助けするつもりだったらしい。 「助かる。」 「暫くしたら交代が来ます。はやく。」 ああ、とクリスは頷いて、周囲を確認しながら客室の方へ向かおうとした時だ、牢屋の出入口からドサッと人が倒れるよう音がしてクリスは振り向いた。 ダニスが、先ほど助言してくれた兵を気絶せたらしい。 クリスは突然のダニスの行動に驚いた。 「何を!?」 「お前の隊にいたんだろう?オレ達が脱走したのに何事もなく立っていたら、処罰の対象になるだろうからな」 くっ……とそのダニスの正論にクリスは押し黙るしか無かった。 今は、クリスは王子を逃亡させた側に立っている。 クリスだけが首謀した事にするなら、ここで巻き込む訳にはいかない。 ダニスの判断は正しい。 だが、それにしても、一言あってもいいものを…。 「いくぞ、客室だったな」 クリスがどこか煮えきらないでいると、ダニスに催促された。 ダニスは、直ぐに客室の方へ走り出した。 クリスは思わず待てと止めようとしたが、方向が合ってる事に驚きながらも、出来るだけ周囲に気取られないように言葉を飲み込んだ。 クリスは、直ぐにダニスに追いつくと、小声で言葉にした。 「なんでこっちだと知っている?」 「……そんな事は後だ、兵をどうするかが先だ」 廊下の角で一旦止まると、先に兵が警備で立っていた。 客室の方へは、来客などなければそこまで兵を見張りに立たせて置く事は少ない。 兵の2人が部屋の前で警備していた。 確かに、これをどするかの方が先だ。 しかし、城に入れる者などごく少数だ。 貴族でも王室からの登城を、命じられない限りは容易く出入りはできないようになっている。 客室など、それこそ高位な方々しか使用しない。 下町の裏を仕切ってる物といえど、城内部まで把握してるはずがない。 しかし、今はそれを問い詰めている場合でもない事をクリス頭を振って、他の思考を追い出した。 「私が兵を片付けて中へ突撃する。お前は見張りを頼む」 「……わかった。……もしも、どんな光景を目にしても憤るなよ」 特攻の提案した後に、少し間を置いてからダニスが唐突な言葉にするのに、どういう事だ!?とクリスが訝し気に聞く。 ダニスは、銃の弾の確認をしながら淡々した口調で、行けば多分わかる……。 そう言って言葉を途切らせた。 私が憤るような事があると?予想できる? アラン王子は、少なくとも王室の1人だ。 罪人に問われる立場であっても、粗雑な扱いを受けるはずがない。 でもこの男ダニスが何の確証もなし、この状況で動揺させるような事を言うだろうか? いや、そんな利にならない事はこの男はしないだろう。 クリスは、嫌な予感をさせながら、一度精神を落ち着ける為に深呼吸をした。 「いくぞ」 クリスは、角から走り出し客室の見張りの兵へ駆けた。 突然角から出て来た、人物に見張りの兵は一瞬驚く、がさすが我国の兵一瞬で判断して武器を構え出す。 しかし、既に剣の柄を握っていたクリスからすれば、その一瞬の間で十分だった。 クリスは剣を抜刀するように一撃で2人をのした。見張りの兵は、ドサリと倒れる。 それを見ていたダニスが、流石と一言言うと角からできた。 そして、ダニスは先刻の言葉通りに、周囲気を配っている。 一撃とはいえ、少し派手な音がしたのもあって、兵がいつ来てもおかしくはない。 脱獄がバレれるの時間の問題だ。 クリスは、一刻もはやく行動せねばと、ドアノブを掴む。当たり前だが鍵がかかっていた。 「……この兵達に鍵を持ってる様子はないようだ」 ダニスが、横倒れている兵から物色していた。 つまり、中から鍵が掛けられていて、見張り持ってないという事は中にも兵がいるかもしれない。 しかし、そんな杞憂で時間をくっている場合でもない。 クリスは、考える前に目の前の扉を力任せに足で蹴破った。 「なっ…ぐはっ」 蹴破ったと同時に、人の呻き声が聞こえた。 運が良かったのか、蹴破った扉の向こうに兵が居たようだ。 お陰で手間が省けた。 クリスは、直ぐ様中に入り叫んだ。 「大丈夫ですか!?アラン王子!!」 その瞬間、クリスはあまりの光景に一瞬立ち止まった。 アラン王子は、確かにそこに居た。 しかし、鎖で天井から吊るされ肌で、明らかに侮辱された痕が少し離れた所からでも一瞬で分かった。 アラン王子は、乱暴に扱われたのか乱れてる髪から青くかなり疲労を帯びた瞳がこちらを見ると、一瞬瞳に光が刺しては瞳を大きく見開いた。 どんな事……とはこれの事か。 まさか一国の王子にこの扱い。 クリス内心一瞬で怒りを覚えたが、ここで冷静さを失ってはうまく逃亡出来るかわからない。 クリスは手を強く握りしめて怒りを鎮め、一呼吸すると直ぐに剣を取ってアランの繋がれてる鎖を断ち切った。 「クリス……」 アラン王子は、少し力のない声でクリスの名前を呼んだ。この様子であれば当たり前だろう。 下手すれば動くのさえ辛いかもしれない。 アラン王子の肢体は、汗ばんで足には侮辱された痕が明確に示して液体で濡れている。 それからクリスは見てはいけない気がして、目伏せ自分の着ていた軍部用のコートをアランの肩に掛けた。 「おい、追手が来た。直ぐにずらかるぞ!!」 ダニスが少し急いで入って来た。 アランを見た瞬間少しだけダニスの眉間にしわが寄った気がする。 こんなまだ16の少年の姿を見たら、誰だって反応されざるおえないだろう。 それほど王子の姿が酷かった。 クリスは、アラン王子に手を差し伸べる。 「……動けますか?」 アラン王子は、眼頭に涙を浮かばせた。 直にそれは拭わられ、クリスの手を取る。 「たぶん、だぃじよ……」 アラン王子はそう言いかけて立とうとした瞬間、膝から崩れ落ちそうになった。 崩れなかったのは、反射的にクリスがアラン王子を支えたからだ。 よく見れば、アラン王子の体が震えている。 力が入らない様子に、クリスは抑えていた怒りがまだ吹き上がってきそうになった。 「無理しないでください。私の背中にお捕まりください」 アラン王子は、視線を逸らしてこくりと頷いた。 王子の顔は複雑そうな顔をしている。 ああ、この王子に手を出したヤツを今直ぐに八つ裂きにしてやりたいとクリス内心で思った。 しかし、今は城から脱出する方が先決だ。 クリスは、アラン王子を背負うと、この忌々しい部屋から出た。 「おい、いくぞ!来た道は危なそうだ」 「分かっている!!」 クリスとダニスは駆け足で来た道を背に走って行く。 しかし、兵の人員召集の笛の音が聞こえた。 応援要請の笛だ。 はやくここから脱出しなければ、あっという間に囲まれてしまう。 「ここからどうする!?」 クリスが、ダニスに話かける。 ダニスが何か考えるように少し間が空いてから、何か話かけようとして、クリスに背負われてるアラン王子がそれを遮った。 「……ここは客室だったな……。だったらこの先に倉庫があるんだけど、そこに……っ…」 アラン王子は、話の途中で何か苦痛を我慢するように言葉を詰まらせた。 どこか軽く息切れも起こしている。 何か変な薬でも飲まされたのではないだろうか?それなら、はやく医者に診てもらいたいが、とクリス心中で思いながらアラン王子の示した倉庫の先へ向かう。 倉庫の中へ入ると、そこは式典などに使用される物が納められているば場所だった。 「着きましたが、ここが何でしょう?」 「部屋の奥に人の銅像がある……右手を下に」 アラン王子の言葉通りに、クリスは銅像の右手を下に向けた。 直ぐに鈍い金属が動く音が聞こえると、銅像の左側に階段が現れた。 クリスは少し驚いて目を瞬きした。 隊長クラスで、名の知れた貴族のクリスは少なからずも何個かの隠し通路を知っている。 しかし、この場所は全く知らされいなかった。 ダニスが、少し可笑しそうに鼻で笑った。 「なるほど……前回1人でどうやって逃げられたのか不思議だったんだが、こういう事か」 「こんな所にあるなんて知りませんでした」 「当たり前だ……ここは王と継承者にしか教えられていない一つ。……私も1ヶ月前に教えられたんだ」 その言葉に、クリスとダニス2人とも驚いた。 王と継承者以外には秘匿されていて、しかも、1ヶ月前に王はこの場所を教えた……それはつまり、ここが使われる可能性を考えていた事になる。 つまり、王は自分の命が狙われている事に何らか気づいていた事になる。 「だったら何故、護衛の強化を命じなかったのか」 クリスは、ボソリと呟く。 そこで、倉庫の部屋の外が騒がしくなってきた。 くまなく探せと声が響く。 「とりあえず、ここから出るぞ」 「そうだな」 三人は隠し通路へと先を急いだ。
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