11.○○○○になっていた

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11.○○○○になっていた

「っ………」 アランは頭痛と体を動かすのも億劫な程の怠さを全身に感じて目を覚ました。 目覚めが良いとは言えないもの、ゆっくりと目を開けた瞬間アランの鼓動はどきっと跳た。 目の前に、ダニスの顔が間近にあったからだ。 全身の怠さと裸のまま横に寝てる事実で、夜から明け方にかけてした行為が事実なのを理解して、アランの顔が更に熱くなるのを感じた。 薬を抜くためといえ、ダニスに尽く己の恥ずかしい醜態を晒してしまった。 後半はもう快楽に身を委ねてしまって記憶が曖昧なのだが、血迷った事を言っていた気がする……。 思い出さない方がいい気がした。 いや、間違いなく思い出さない方がいい! 軽く首を振って頭の中にある記憶をアランは無理矢理追い出す。 当の本人は、小さく寝息を立ててまだ眠っている。 アランの体をがっしりと抱きかかえて寝ているあたり、また抱き枕代わりにされたのだろう。 「しかし……」 こうやって間近でダニスの顔を見ると、どうしても幼い頃に遊んでくれレニウスに似ていると思ってしまう。 黒い髪に黒い睫毛に今は閉じて見えないが瞳も黒い……。 幼い頃なので相手もまだ少年だったが、大人になったレニウスもこんな感じになったのだろうか??と考えてる途中で目を伏せた。 (でも、レニウスは……もう居ない) とてもショックだった事を覚えている。 あれは8才の頃だったろうか…。 ある日、執事から聞いた話は突然の訃報だった。 レニウスの住う邸宅に火が上がり、家族一同逃げ遅れその中にもレニウスが居て、一家諸共亡くなってしまったのだ。 だから今目の前に寝ている男はがレニウスのはずがない。 でも、ダニスの首に掛けられてるペンダントからラベンダーの香りがする事に、アランは気に掛かっていた。 偶然なのだろうか? ペンダントに触れようとした時、ダニスが目を覚ました。  「ん……今何時だ?」 アランは驚いて直様、手を引っ込めた。 それにダニスは気付いていない様子で、抱き枕にされてた腕の拘束が緩む。 窓の方を一度見てからダニスは起き上がると、黒い髪をくしゃりと掻き上げ近くに置いてあったタバコに火を付けて吸った。 まだ覚醒しきっていないのか瞼が重そうだった。 「……体の方は大丈夫か?」 「全身が怠い……」 だろうな、っとダニスはまだ少し寝ぼけた声で返すと、タバコの火を灰皿で消してベッドから立ち上がった。 「今日はそのまま寝ておけ、色々聞きたい事もあるだろうが後でいい」 匿って貰うのにそういう訳には、とアランはが起き上がろうとした瞬間だった、膝を立てて起き上がろうしたはずなのに、起こそうとした体がそのままベッドにまた静んだ。 「へぶっ!?」 自分の体……というか下半身に力が入らなかった。 力を入れた瞬間に腰が抜けるのか全く起き上がれない。 そんな状況にアランは戸惑った。 そんなアランを見てか、ダニスは可笑しそうに少し笑っていた。 「アレだけしたからな、動けなくて当然だ」 なっ、とアランは顔を赤くした。 昨夜の自分の醜態を思い出して、とても居た堪れない気分になった。 しかし、元々は薬を盛ったティムのせいであってアラン自身が望んだ訳ではない。 仕方なく…. そう、仕方なくそういう状態になっただけだ。 「べ、別に好きであんな状態になった訳じゃない!」 恥ずかしさのあまりベッドにあった枕を掴んで、ダニスの方に投げる。 ダニスは、くくっと揶揄うように笑いながらあっさりと枕を避けた。 ムスッと赤くなった顔を膨らまして怒るアランを横目に見てダニスはユニットバスに入ろうとすると、さっきまでむくれていたアランに呼び止められる。 「ちょ、ちょっと待て……私も連れていってくれ……」 起きたら悲惨な事になっていなかったので、多分ダニスが気を利かしてくれたんだろう。 とは言え、汗で乾いた体は気持ちが良くなかった。 シャワーを借りるにしても、ユニットバスにまで辿り着ける気がしない。 ダニスからそっぽを向いけて話しかけるアランの顔が少し赤いのを見て、ダニスは静かに笑ってはアランに肩を貸した。 「これで満足か、王子さま?」 ワザとそう言葉にするダニスに、アランはむすっとした。 その後、ダニスの言う通りにアランはまたベッドで横になっていた。 というよりは、動けないので寝るしかできない。 体も全身の重たい怠さも全然抜けないのもあってダニスの言葉にアランは甘える事にした。 ダニスは、仕事があると部屋から出て行ってから、何時間が経っただろうか。 コンコン、とドアからノックの音が聞こえ、どうぞと言い掛けて自分が今ウィッグをしてない事に気づいた。 「入りますよっとー………」 「ちょっと待っ」 片手には何か料理の皿を持って、もう片方にはパンが入ってる籠を持ったティムが入って来た瞬間立ち止まった。 アランは慌てるも何も出来ずにそのままティムと視線が合った。 「わーお、ブラウンの長髪美少年かと思ったら、まさかのブロンドの美少年だったスか」 アランは、青ざめて直ぐにベッドのシーツを頭から被った。 既に遅いのは承知だが、……見られてしまった。 ダニスの部屋だからと言って完全に油断していた。 ティムの方は、意外にもそんなに驚いてる様子もなく、口笛を吹いて少し驚いてる様子で返してくるのに、アランはシーツの隙間からチラリとティムの方を見る。 「そんな慌てなくて大丈夫ッスよ。これでも諜報とかで探り入れるのを生業にしてるんで、ダニスさんが連れてきたって事は、そこら辺の少年ではないっしょ?アデル坊ちゃん?」 ティムは、なんて事ない様子で持ってきた食べ物をテーブルに並べた。 アデルとは、ここに来たときに仮に名乗った名前だ。 その言い方だと、検討がついていながら昨日は飲み物に薬を盛ったという事になる。 「……ちょっと待て……それを分かってて昨日私にアレを盛ったのか!?」 アランは、被っていたシーツを投げると動けないながら食い気味にティムに話しかけた。 ティムは、テーブルに食べ物を置くとアランを見ては、楽しげににっこりと笑みを浮かべた。 検討が付いてる……が、どこまでなのかは分からないらしい。だけど、少なくとも重要人物である事をわかった上での昨日の行動になる。 「ふざけるなっ!誰のせいであんな」 とアランは怒りを露わにして声を荒げると、ティムは近づいて人差し指をアランの口に当てて、黙る様に促された。 「少し悪いスけど、大声だと他に聞こえるんで静かに。」 アランは怪訝な顔をしながらも、自分自身の素性を知られては不味い……大人しくそこで黙った。 その様子にティムは指を離すと、さっきまでにっこりと話しやすそうな雰囲気だったティムの表情が別人みたいに冷静で落ち着いた顔つきに変わった。 「アンタが重要人物なら、まずここにいる上で安全を確立すると同時に、ダニスさんには少し自覚してもらう必要があったもので、アナタには悪いと思いましたが双方の為に、少し強引に事を運ばせました」 言葉使いまでも変わったティムに、こちらが本来の姿なのだろうか、淡々と話すティムの落ち着いた声に、口の中に溜まった唾を飲み込む。 「……私の安全の確立と……ダニスの自覚??」 とはいえ、疑問に残る言葉にアランは首を傾げる。 「ここを何処だと思ってます? 本来なら表に出てこられない人達が集まる所です。何も考えずにふらりと外に出れば……アナタなら直ぐに売人に捕まりますよ?薬漬けにされる可能性だってあります」 ティムの言葉にぞくっと寒気が走った。 ダニスに付いてくる途中、路地を歩けば普段見ない光景が目に入ったのも確かだった。 本来ならそれを正していかなければいけない立場だったが、今はただの力ない少年でしかない。 ティムの言う通り、ダニスが居るから何もされない。でも、しかし、とはいえ……。 「……だったとして、なんで…その……ああする必要がある??」 ティムはにっこりと笑って、アランの両肩を掴んだ。 「ここで1番手を出せない様になるには、ダニスさんの愛人になるのが早いので。」 「………は?」 あまりにも意外な言葉にアランは呆然とした。 暫くして、沸騰して湯気が出るかと思うくらい一気に顔が熱くなった。 その話でいくと、今現在もしかしたら愛人だと思われてる可能性があるって事になる。 「い、意味がわからないんだが……」 「あれ?わかんない?……ダニスさんは、普段身を隠すのにあちこち点在してますが、拠点とかの仕事で使う自分の部屋に人を泊めるなんて事まずないッス。なので、既成事実作ってー泊まってしまえば、一気に広まるので易々手を出される事もなくなるし、心配ないので安心して下さい」 途中からいつものティムの軽口調に戻るとどこか楽しげに話した。 それを聞いたアランは、真っ赤にしていた顔が今度は一気に青ざめる。 つまり、もう下手すればこの拠点には話が出回ってると言う事になる。 アランの頭の中は大混乱していた。 「ちょ、ちょっと待て…….それなら泊まるだけでいいんじゃ……」 「ここ……ある程度の声は聞こえないんですけど……昨日のはダダ漏れだったスね」 最後にティムが小声で話す言葉で、アランはトドメを刺された。 投げたシーツをアランは手に取ると、被って恥ずかしさで縮こまった。 つまり、昨日のあれやそれやで己の恥ずかしい醜態の喘ぎ声が漏れていた事になる。 どれくらいこの拠点に人が居たかは知らない。 少なくとも誰か居たのなら、このティムの話からするれば、直ぐに広まり誰かとすれ違えばそういう目で見られるという事になる。 アランは、もうこの部屋から一歩も出たくない気持ちになった。 シーツに包まって縮こまったアランが一向に顔を見せない事に、流石にやり過ぎたかとティムは、ははは……と乾いた笑いを発しながら顔を軽く掻いた。 「だ、大丈夫ですって、ここじゃ他の奴らは良くある事ですし、気にしないッス」 「そういう事じゃないぃいいいい!!」 今になって、昨日ダニスが部屋に入ってきてアランの状態見た後、長いため息をついた理由がわかった気がした。 このティムという男が何を目的としてたかを悟ったからなんじゃ……と……。 「ま、まぁ、お腹減ってるっしょ? とりあえず食べましょ」 そう言われて途端、パンの焼き立ての香りでお腹の虫がぐぅうううっと鳴った。 シーツからチラリとティムの方を見る。 考えてみれば、逃亡したからまともなご飯を口にした覚えがなかった。 それは、恥ずかしいがお腹も鳴るだろう。 アランは起き上がれないので、パンをこっちに持ってくるようにティムに促して、籠に入っていたパンを掴む。 口に運ぼうと思ったが、前例があるのでティムの方をじとーと訝しげに見た。 それに気づいたティムが、はははと軽く笑った。 「いやいや、もう何もしませんて。ていうか次何かしたらダニスさんに本当に殺されますから」 と両手を上げて今度は苦笑した。 そう言われても、このティムという人物自身を信用できない。 初対面で話しやすいと思っていたが、どうやらそれは見た目だけのようで腹の中で何を考えてるか分からない人というのが今の印象である。 ぐぅううう、とまたお腹の虫が鳴って、空腹には勝てなくパンにかじり付いた。 「そういえば、もう一個のダニスに何を自覚して欲しかったんだ?」 そう聞くと、ティムはまたどこか楽しげに笑みを浮かべる。 「あの人は、頭もキレるし、冷静に状況をみる目を持ってるスけどね……自分の事には疎い人なので」 アランは、どういう意味なのか分からずにパンを食べながら首を傾げる。 ティムはそれ以上は何も言わずに今度は口笛を吹き出したので、何となくだがあんまり良い事じゃない気がした。 「ま、暫く間よろしくっす、愛人さん?」 ティムの言葉にアランは咳き込んだ。 ここに居る間は、とても居心地が悪くなりそうだ。
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