16.譲れないもの

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16.譲れないもの

アランとティムは、部下達の誘導に沿って兵から逃げていた。 必死に逃げる中、さすがこの街の裏側の人達だけあって街を掌握しているのか兵士に追いつかれる事は無かった。 こんなに普段関わる事がない人達が頼りになると思った事はないだろう。 「おかしい……」 一緒に逃げているティムが訝しがな表情をしてポツリと呟いた。 何がおかしいのだろうか。 こうして上手く逃げれてると言うのに。 ティムは走りながら周りを見渡した。 その表情はどこか険しい。 「誘導からそれます」 「え!?」 驚く間にティムに引っ張られ、周囲の誘導と違う路地へと曲がっていく。 細い路地を抜けた先で、男数人が待ち構えていた。 路地の出口を囲まれてしまっては、止まるしかない。 「おっと、そっち行ってもらったら困る」 「やっぱり追手が少ないと思ったら、ワザと別の場所に誘導してるな?どういうつもりだ!?」 ティムの顔が更に険しくなり、言葉もいつもの軽口がなくなっていた。 別の場所に誘導してるというのはどういう事だろうか? いやその前に、この男達はアラン達を立ち止まらせて、誘導する方へ向かわないと困るという言う。 取り囲んだ男達の一人がニヤリと笑った。 「どういうつもりかって?簡単な話さ、ただ今のボスに不満があって、たまたま上手い話転がり込んで来ただけってね!」 「……ダニスさんを裏切る気か?」 ティムが、怒りがヒシヒシと伝わる低い声で返す。 その顔にアランはゾクリとした。 いつもどこか軽い口調で話しやすいティムが、別人の様に物静かに怒りを表しては、ドスの効いた声を出す。 これが闇社会の人間の顔なのかもしれない。 しかし、それに男は諸共しずに、寧ろ笑って返した。 「裏切る??そもそも、こっちの世界じゃそんなの当たり前だろ?上手く立ち回ったヤツが頭になる。それがここのルールだろうがよ!」 「はは、これでダニスさんに勝った気でいるなら、おめでたい頭だよ」 ティムが鼻で笑って返すと、男はなんだと?と怒りを露わにしてティムの胸ぐらを掴んだ。 ティムは目を細めて笑った。 「どうせ安いうまい話にのったんだろうけど、それが上手くいくといいな?」 うるせぇ!!と男は声を荒げてから、ティムの顔を殴った。 ティムは殴られた反動で床に倒れる。 アランは慌ててティムに駆け寄りティムと男の間を塞いだ。 「やめろ!!用があるのは私だろう!?ついて行くからやめてくれ」 男は、怒りがまだおさまっていない様子から、まぁいい。とどうにか抑え、逃げないようにアランは周りに居た男の部下達に腕を捕まえた。 アランは無理やり立たされると、ティムがこちらの方を見た。 「オレなんて構わずに……」 「こんなに囲まれてたんじゃ逃げた所で直ぐに捕まってしまうよ。それなら、ティムに無駄な傷を負わしたくない」 アランは、ティムに苦し紛れに笑いかけた。 いつかこうなるかもと、考えて無かった訳じゃない。 アランにとって、匿ったり一緒に逃げてくれたティムが無残に目の前で殴られるくらいなら、大人しく言う事を聞いた方がいい。 もしかしたら、まだ逃げるチャンスがあるかもしれない。 それに、アランとティムにを逃す時に言ったダニスの言葉も気になった。 わざわざ追っている案件とダニスが口にしたのは、何よりも優先してるはずだ。 そして、それは多分ティムじゃないと追えない。 「は、随分と甘いこった……まあこっちは助かるけどなぁ」 「大人しくついていく、ティムは解放してくれ」 男は、周りに目で合図すると取り囲んでいた男達が道開けた。 「ふざけるな、このままダニスさんの前に顔を見せれるか!」 ティムが、アランが庇おうとしてる事に憤る。 それは、自分のせいで今までを台無しにするのかと、言いたいんだろう。 ダニスに頼まれたのも大きいかもしれない。 しかし、アランは首を横に振った。 「私は最悪殺される事はない。でもティムはこの先着いてきたら分からない。ダニスが言った言葉を思い出してくれ」 そこで、ティムが口を閉ざした。 無言のままアランを見つめるのに、アランは軽く頷いた。 ティムは苦虫を噛み潰したような顔をして、舌打ちと共に起き上がると開けた道から逃げ出した。 「さて、来てもらおうか?」 「わかっている」 男に引っ張られた手をアランは振り払う。 男はフンと鼻を鳴らした。 周囲に囲まれながら、誘導される。 もし、誰かが手引きをしているなら、間違いなく宰相ガブリエルだろう。 それなら尚の事、ティムの存在に気づかれては困る気がした。 だから、これでいいんだとアランは己に言い聞かせる。強気で言い張ったが、城で起きた事を思い出すと足がすくむ。 それでも、今アランにできる事はこれぐらいしか思いつかなかった。 男達についていくと、下町の城下町の境にある人通りの少ない辺りまでいく。 周辺に国兵達が並び、その先には嫌でも忘れられない小太りの体格のいい宰相ガブリエルが太々しく立っていた。 「どうやら上手くいったようだな。やっぱりあのレブスキー家の者を見張らせて正解だったようだ」 下卑た笑みを浮かべるガブリエルに、アランは睨みつける。 最初っからこの宰相ガブリエルはあの騎士であるクリスを信用しては無かったらしい。 こんな人物だが、宰相の座にいるだけはある。 その知恵を悪い方へと使わなければ良い宰相だったろう。 アランを捕まえていた男が、ガブリエルの方へとアランの背中を押した。 「約束通り捕まえてきてやったぜ。さぁ、報酬を頂こうか。」 アランは押されたせいでよたよたとすると、国兵の1人にこちらへと宰相ガブリエルの近くに促される。 ガブリエルは、これで鬼ごっこは終わりだと卑屈に笑ってみせた。 アランは、眉間にシワを寄せて反感的に顔を背けた。 そんなアランに相変わらず可愛くない子どもだとガブリエルはぼやくと、ダニスを裏切ってここまで連れてきた男たちの方へと向いた。 「よくやってくれた。これが報酬だ」 ガブリエルは、すっと国兵達に手を上げた。 それに、アランは少しばかり嫌な予感がした。 周りを見れば国兵達の人数の方が多い。 引き渡すだけなら、そんなに人数は必要ない。 信用ならないからの人数と言うよりは……。 ガブリエルが手を下ろす。 「さあ、王子を誘拐したコヤツらを捕まえろ!」 一気に国兵達が、ダニスを裏切った男どもを武器を持って取り囲んだ。 「な!?……騙したな!?」 「騙した??ハハハめでたい頭だ。この私が貴様みたいなヤツと取引した覚えはない」 ガブリエルは、下卑た笑みを浮かべる。 「なんだと!?」 取り囲まれた男達は、内に隠してたナイフや武器を取り出した。 アランは、あまりに勝手なガブリエルのやり方に、思わず止めろ!と叫んで飛び出そうとするのを国兵に掴まれ抑えこまれる。 「リーダーの男以外殺してもかまん」 「な、私はここにいるだろ!?なぜそこまでする必要がある!?」 アランはガブリエルに投げかけると、ガブリエルはフンと鼻で笑う。 「この国の宰相が、ゴロツキと手を組んだと噂になっても困る」 貴族社会だ、体面を気にする故に噂には敏感だ。 だが、そんな事の為に殺さなくてもいいはずだ。 アランは、目の前で国兵との乱闘が始まりだし、囲まれて逃げ場のない方が圧倒的に不利で無残に人が倒れていく光景に、顔を逸らした。 「無駄な逃亡などするから、関係ない者まで巻き込むんだ。これに懲りて諦め、さっさと私の傀儡になればいいものを…」 ビクッとアランは体を震わした。 もっともな話だった。 確かにアランが逃げてなければこんな事態にはなってなかったのかもしれない。 そういう意味で負い目がないと言われれば嘘になる。 でも、アランは自分が王子だからこそ、譲ってはいけないものがあると思っていた。 「私が……宰相に任せて大丈夫だと思っていたなら、父をアンタに殺されてなければ、幾らでもお飾り人形にだってなっただろう。あの人らを私がそうさせたのなら、元々その状況を作ったのは宰相……貴様ではないのか?」 そう強く返すと、ガブリエルは舌打ちをして本当に可愛くないガキだと悪態ついた。 「しまった!逃すな!!」 そんなやり取りをしてる間に、1人の男が逃げた。 リーダーを務めてた男だった。 ガブリエルは即座に立ち上がる。 「何をしている追え!!」 命令された兵達は、男を追って行った。 ガブリエルはこちらをチラリと見て一言呟く。 「そんな余裕を言ってられるのも今のうちだ」 アランは、残りの兵に連れられて城へと向かって行った。 少しだけダニスやティム達を心配しながら、下町からアランは背を向けた。 いらん世話だ、自分の事だけ考えてろ。と今この場に居たならそう言われそうだと思いながら、今度は何が待っているのか…と、そびえ立つ城を遠くから眺めてはアランは体に寒気を感じた。
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