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4.こんなのは知らない※
「……ラン………アラン!!」
アランは、呼び声でハッと我に返った。
視界には外に出ていたはずのダニスが映る。
身体中は汗でべっとりしていて、寒くもないのに震え上がっていた。閉じていた口は奥歯を噛み締めれないのか、歯同士が小刻みに当たりガチガチと鳴っている。
明らかに様子のおかしいアランに、ダニスはそっと手を額に当てようとした瞬間、アランはその手が別の何かに見え凄い勢いで振り払った。
無意識にした行動にアランはハッとなって自分の手を見る。
「ごめ……」
何かに怯えきったアランの様子に、ダニスの冷静沈着なイメージにしては意外にも少し驚いた顔をしていた。
アランは、ダニスから背を向ける様に寝たまま体を横にする。
「ちが……っ……ごめん……」
体を震わしたまま、アランは自分自身を強く抱きしめるように両腕を抱えて身を縮こまった。
沈黙の後に、ダニスの手がアランの頭をくしゃりと一度撫でては、背後から気配が遠のくの感じて少しホッとした。
少しの間でいい、放置してくれればこの震えもしだいに治るはずだとアランはベッドに横になりながらそう思った。
その束の間、ダニスの手がアランの首を持ち上げ無理やり身体を起こさせられる。背中から抱きしめられるみたいにすぽりとダニス腕の中へと収まった。
「なっ……!??」
突然の事にアランは頭が真っ白になる。
だが震えた体は無意識に反射で拒むように暴れようとすると、片腕で身体を押さえ込まれた。
「……悪いが、ここは俺のベッドで一つしかないんでな。あまり暴れるなら突き落とすが?」
思ってもいない言葉にアランは言葉を失った。
この男は仮にも王子だと知った相手に遠慮と言う言葉を知らないのだろうか?
ダニスをよく見たらコートやスーツは脱いでいて、軽装の姿をしていた。
先程アランの頭を撫でた手は何だったのか。
優しさだと思っていたのは勘違いだったのか?
まだ体は震えているものの、驚いたせいなのか体が拒むのも忘れてしまっていた。
「そのまま暴れるなよ…」
「……え?」
ダニスは近くに持ってきていたのか、何かのボトルを取ると中身を自分の手に掛ける。
アランは、何が始まるのかと首を傾げていると、ダニスの手がアランの着てるサイズが合ってない大きめのシャツをめくり上げ、液体で濡れた手を滑り込ませる。
突然の事に、アランはダニスの腕を掴み真っ青になった。
「なに……して……?」
「……あえて確認しなかったんだが……な」
確認しなかったとはどういう意味だろうか?
掴んだ手の停止も無意味なように、その手は先へと進み、本来触れる事のない孔へ触れた。
その瞬間、アランは痛みに耐えるように顔を歪め体が震え上がった。
「ひっ……っ……なんで……」
また異常までに体を震えさせるアランに、ダニスは落ち着けと言うように、アランを抱きかえた方の手であやす様に肩をゆっくりと何度か叩く。
その間にも、中へと沈み込ませると何か確認するよう中をかき回す。
触れただけでさえ痛みを感じたのに、そこ行為に痛みしか感じずにアランは悲鳴に近い声を上げた。
「ひゃっ……!!…あっ……やめっ……」
アランは、逃れようと体を動かそうとするにも、ダニスに腕で制止されて逃れる事もままならずに、痛みで瞼に涙が溜まっていく。
ただ受け入れるしかできずに、奥歯を強く噛みしめ痛みに堪えた。
これは酷いな……と耳元でダニスが一言呟くのを聞くと、指は動きが止まり、ゆっくりと引き抜かれる。
痛みに堪えてたアランは、それと同時に無意識に止めていた息を吐いては、息を荒げた。
「……気休めにしかならんだろうが……」
まだ何かするのか、とダニスの方を見る。
息が乱れて言葉が出てきそうになく、ただダニスの行動を眺めた。
ダニスは、ベッドの側にある台の引き出しを開けると、小さな蝋燭を取り出して台に起き、引き出しに入ってた箱を取り出す。
中身は治療用らしく包帯やら湿布が入っていて、その中からクリーム状の薬をり取り出した。
まったく……嫌な予感しかしない。
小さな蝋燭にマッチで火を付けると、それはどうやらアロマが含まれていたらしい。
甘い香りが立ちのぼる。
あまり嗅いだことがない甘ったるい匂いに、頭がくらくらしだした。
明らかにただのアロマではないと悟って手で鼻と口を覆うが、既に遅かったのか思考がうまく働かずにぼんやりとしてくる。
「なんだ……これは……」
「もう少し我慢してもらうついでだ、恐怖から少しだけ和げてやる」
淡々と答えるダニスに、なにを、とアランは言いかける。
その間に、ダニスの手がシャツを捲って露出した腹から肋までゆっくりと撫でた。
ただ撫でられただけだというのに、アランは背筋から頭までゾクリと体を震わせる。
「……っ…」
ぼんやりとしてきた頭では、抵抗する行動にすら移れない。
体が火照ってくるような感覚に、これもあの香りのせいなのだろうか。
ダニスの息遣いが耳に擦れ、それさえ擽ったく感じて意識しまう。
「……そのまま快感にだけ集中しろ」
抵抗がないのを感じてか、抑えていたダニスの手がアランの頭をくしゃりと撫でた。
ブロンドの髪を指で掻き分け、アランの耳を探りあてると優しく食まれる。
「んっ……」
ゾクゾクと身の内から何か這い上がってくる感覚にアランは戸惑った。
こんな感覚は知らない。
ただ、痛くて気持ち悪い感覚しか知らない。
こんなに身の内から熱くなってく感覚は知らなかった。ダニスが触れる度に、反応する体に恥ずかしさが湧いてくる。
今日、初めて出会ったはずなのに、昔から知ってたみたいに撫でられる手にどこかホッとする。特に頭を撫でられると誰かの手を思い出す気がした。
これもさっきの香りのせいなのだろうか。
そんなアランの内心もお構いなしに、今度は耳裏から首筋をダニスの舌が伝った。
「はっ……んんっ……」
ゾクゾクと体を震わすと同時に、口から出そうになる声を押し殺す。甘さを帯びた自分の吐息に驚いては恥ずかしい。
そんな感覚に酔いしれてる間、ダニスの片手が薬のクリームに手が伸びてるのに、アランは気づかなかった。
再び孔に触れる感覚で漸く気づいた。
「っ痛……!」
クリームで染みたのかヒリヒリするよう痛い。
「大丈夫だ…こっちに意識を向けろ」
ダニスの口が首の後ろに吸いつき、かと思えば首の付け根まで舌が伝う。触れた指は中へと再び沈んで塗る為に弄られた。
「あっ……っ……」
アランは、痛みで体が震えてるのか、ダニスに触れられて反応してるのか分からずに混乱する。それも思考力を奪われた頭では、与えられる感覚にしか従えない。
内から湧き上がってく熱に、体は素直なのかアラン自身は昂りを見せていた。
シャツが捲られてるせいで、隠れるものはなく直視してしまう。
「っ……なん……で」
それに気づいたダニスは、別におかしい事じゃない、と言う。
おかしい事じゃない?と首を傾げると、耳元でダニスが微かに笑う。
「……他にもあるって事だよ」
そう言葉にして、ダニスの空いてる手がアラン自身に触れてきた。
「まっ…!?」
驚きと同時に、敏感になった部分に触れられて、体がゾクリと震える。制止の言葉にも耳を傾けずに、そのまま扱かれる。
突然の強い快感にアランは無意識に身体をくねらせ、無防備だった口は自分でも聞いた事ない艶めいた声が出た。
「ふあっ……アッ……あっ…?」
手の動きと共に自然に腰が動いて、もっとして欲しいとどこか思うアラン自身の自分に羞恥心が湧いて恥ずかしさで顔が熱い。
気づけば、沈み込んだ方で何かを探ってるように弄っている。数秒もしない内に、アランの体はビクッと反り返した。
「アアッ……!!」
ここか、とダニスは同じ場所を執拗に触ってくる。その度に、アランは裏返った声があがり、頭は真っ白になって目の前がチカチカと眩しい。
「ひっ……あっ…ソコ、…へん……っ」
ダニスは、そうか、と言うだけで前の手の動きも止める事もなく動かされて、意識が一瞬飛びかけた。
容赦なく全身に熱が上り詰めていく。
「あ、あ……もっ………ああっっーー!!」
体が飛び跳ねるように反り返ると、同時にアラン自身も耐えきれずに、熱を吐き出した。
アランは、まだ思考が追いついていかなく、息を乱しては、脱力するようにダニスの腕の中に体重を預けた。
少しは紛れたか?とダニスが頭を撫でてくれた。
こんな感覚は初めてで、多分これが気持ちいいというのだろう。ガブリエルの部下から受けた屈辱は、ただただ気持ち悪くて痛いだけのイメージしか残ってなかった。
とはいえ、男の手で女みたいに喘がされるというのは、とても複雑な心境で……とても恥ずかしい。なんだか、ダニスを直視できずに視線を逸らした。
その後、ダニスは特別に何か変わる様子もなく淡々と蝋燭の火を消して、体が汗で気持ち悪かった所をダニスは拭いてくれる。
正直ほったらかしにされるかと思っていたので意外だった。
「夜明け前に出るから今のうちに寝ておけ」
とダニスが言ったので、流石にそろそろ恥ずかしいの離してほしい。
腕の中から出ようとしたら、また腕を回されて動きを制止されると、そのまま後ろに体重をかけたのか一緒にベッドへ倒れた。
「え……ちょっと…はなっ」
「俺は人肌がないと寝れん…」
「え?? ……は?」
アランは真っ赤になった。
さっきまで半弄ばれた気がする相手と抱きしめられながら寝るとか勘弁してほしい。
ダニスの方は意識してないのかもしれないが、アランにとっては先程の後で、無意識にも意識してしまう。
「はなせっっ!!」
と暴れるも、ダニスの腕の力が強いのか抜け出せずにジタバタした。
暫くして、なにも返事しないのに様子をうかがうと、ダニスは小さく寝息をたてて寝ていた。
「本当に寝てる……」
アランは脱力して、仕方なしにそのまま動かずに横たわった。
ふと、そういえば最初に目覚めた時もすぐ側でダニスが寝ていた事を思い出す。
それで傷の手当をした後、抱き枕の代わりにされた事に気付いては愕然とした。
アホらしい……と思って、もう寝るかとダニスの体温を半分感じながら目をつぶった。
それでやっと気づいた。
タバコの匂いで気づかなかったのかもしれない。微かにラベンダーの香りが少しする。
目を開けると、ダニスのシャツの隙間からペンダントのチェーンが見えて、そこに香りを入れているのかもしれない。
その香りにどこか懐かしさを感じながら目を瞑って、ゆっくりとアランは睡眠に落ちた。
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