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6-1.懐かしい想い出
無実の罪で追われるようになった日から。
……正確には、父の王が誰かに暗殺された日から、アランはまともに寝れた記憶は無かった。
落ち着いて寝る日がいつ来るかなんて分からずに、このまま城に居ては王が愛したこの国は別の姿になり、あの男に何も報いぬまま思い通りになるのだと思ったら、ただ逃げるしかなかった。
誰が味方で誰が敵なのかも分からない現状で、アランにできたのはそれくらいでしかない。
少なくともあのガブリエルの傀儡になって、思いのまま政治を動かされるという点に置いては回避できるのだから、その選択しかなかった。
城から逃げてるその間、息つく暇さえあるはずもなく必死に逃げ迷っていたら、どこかの路地にたどり着ついて気絶するように倒れた。
まだ何も解決はしてない、でも誰かを頼りに眠りにつけたのが、久しぶりな気がした。
微かに香るラベンダーの香り……。
懐かしい……
懐かしい?
ああ……そうだ。あれはー………。
城の敷地内にある庭園、空に雲が見えないくらい青が空一面に広がって晴れていて、日入りも気温も風も気持ちいいそんな日だった。
そんな日だと言うのに、幼いアランは庭園の草木に隠れて座り込み、膝を抱えて顔を俯いていた。
第一継承者になる王子として幼少の頃から教育が厳しく、それに嫌気がさしては庭園に逃げ込んで隠れていた。
母は早くに病気で亡くなり、継母は自分の子が産まれない事に、アランに厳しく当たった。
そんな幼少時代に、心を明るくしてくれた存在が父の他にもう1人いたのだ。
アランは、草木に隠れて蹲っているとガサガサと草木を掻き分ける音が聞こえて、見つかるのかと体が震えた。
「そこに居るんだろ?早く出てこないとまた怒られるよ」
その声は、今必死に王子を探してる侍女や執事ではない。
でも、聞き覚えのある少年の声を聞いてアランは顔を上げた。
タイミングよく見つけたのか、掻き分けた草木の間から自分よりそこそこ年齢の離れたその少年と目が合った。
この国では珍しい、黒髪に黒い瞳で長い髪を後ろに一つに括っている。
その少年はにっこりと笑みを浮かべては、拳を使って上から下へと軽く振り下ろしてアランの頭を軽く叩いた。
「いたっっ!!!」
アランは、直様軽く叩かれた頭を手で抑える。
黒髪の少年はため息をついた。
「こら、侍女や執事を困らせたらダメだろ」
「だってー」
むすりと顔を膨らませては、アランは機嫌を損ねる。
仕方がないと軽く息を吐いて、くしゃりと少年はアランの頭を撫でると、優し気に微笑んだ。
「じゃあ、今日ちゃんと侍女や執事達の言うことを聞いて全部おわったら、後で好きな遊びに付き合ってやるから」
それを聞いたアランは、さっきまで拗ねていた顔をパッと明るくした。
「本当に!?」
キラキラした目でアランは少年を見ると、頷いて微笑み返した。
アランは、直ぐに立ち上がると、約束だからねっと少年を背に今も探し回ってるだろう侍女や執事達のもとへ走っていった。
日々勉学などに忙しくて、王子である事から同い年にこうやって接してくれる友人はアランには居なかった。立場からさっきの叩かれた行動さえ、今この場に侍女や執事がいたら大騒ぎになる。
同じ立場の様に接してくれる人は、ほぼ居ないアランにとって少年の存在は嬉しかった。撫でてくれる手も好きだった。
そういえば、その少年もラベンダーの香りを纏っていたような気がする。
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