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「おう、おはよう」
「岳、また折笠くんといるー。ふたりってそんな仲良かったっけ?」
ここ数日、柴崎が雛に絡む場面が増えたことに、周りも疑問を抱いていたのだ。
圭一と俊輔にも尋ねられたが、雛自身もいまいち状況が掴めていないので、説明のしようがない。
彼女たちから、ほんのりと甘い香りがした。
香水か何かを付けているのだろうか。
先日の出来事を思い出し、頭を抱えたくなる。
真斗にはあれから無視を決め込んでいる。
下手に突っかかるより、こちらの方がよっぽど効果があるのだ。
会話を弾ませる柴崎たちをぼんやりと眺める。
女子の片方、黒髪をポニーテールに結んだ倉木をチラリと見やる。
しかし直ぐに視線を逸らした。
倉木の柴崎へ向ける目を直視できなかったのだ。
真っ直ぐで、輝いていて、どこか熱っぽい。
その目の意味を、自分は知ってしまっている。
彼女の抱くものは、とても美しいものだ。
淡い青春の1ページとして記憶に残り続けるだろう。
彼女たちには、あの目を彼に向けることが許される。
胸が、酷く締め付けられる。
「……くん、折笠くん」
「…っ」
我に返った。
顔を上げると、3人の視線がこちらに向けられている。
俺は数度瞬きをすると、名前を呼ばれたことに気付き、ぎこちなく応じた。
「あ、ごめん、…なに?」
「いや、折笠くんって確か帰国子女なんだよねー?」
セミロングの髪をハーフアップに結んだ加藤が、好奇心を滲ませた目でこちらを見る。
俺は一度動きを止め、ため息を吐きそうになるのをグッと堪えた。
確かに、俺は小学4年生までアメリカにいた。
正直日本よりも住んでいた期間は長い。
日本語は両親が家で話していたので問題はなかった。
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