秘め事

11/18
前へ
/109ページ
次へ
「おう、おはよう」 「岳、また折笠くんといるー。ふたりってそんな仲良かったっけ?」 ここ数日、柴崎が雛に絡む場面が増えたことに、周りも疑問を抱いていたのだ。 圭一と俊輔にも尋ねられたが、雛自身もいまいち状況が掴めていないので、説明のしようがない。 彼女たちから、ほんのりと甘い香りがした。 香水か何かを付けているのだろうか。 先日の出来事を思い出し、頭を抱えたくなる。 真斗にはあれから無視を決め込んでいる。 下手に突っかかるより、こちらの方がよっぽど効果があるのだ。 会話を弾ませる柴崎たちをぼんやりと眺める。 女子の片方、黒髪をポニーテールに結んだ倉木をチラリと見やる。 しかし直ぐに視線を逸らした。 倉木の柴崎へ向ける目を直視できなかったのだ。 真っ直ぐで、輝いていて、どこか熱っぽい。 その目の意味を、自分は知ってしまっている。 彼女の抱くものは、とても美しいものだ。 淡い青春の1ページとして記憶に残り続けるだろう。 彼女たちには、あの目を彼に向けることが許される。 胸が、酷く締め付けられる。 「……くん、折笠くん」 「…っ」 我に返った。 顔を上げると、3人の視線がこちらに向けられている。 俺は数度瞬きをすると、名前を呼ばれたことに気付き、ぎこちなく応じた。 「あ、ごめん、…なに?」 「いや、折笠くんって確か帰国子女なんだよねー?」 セミロングの髪をハーフアップに結んだ加藤が、好奇心を滲ませた目でこちらを見る。 俺は一度動きを止め、ため息を吐きそうになるのをグッと堪えた。 確かに、俺は小学4年生までアメリカにいた。 正直日本よりも住んでいた期間は長い。 日本語は両親が家で話していたので問題はなかった。
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!

171人が本棚に入れています
本棚に追加