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正直、この手の話題には辟易していた。
特別目立ちたい欲など持たない自分には、帰国子女という肩書きは面倒でしかない。
知られないに越したことはないが、転校して来た時点でアメリカから来たことはバレていたのでどうしようもなかった。
真斗は上手いこと帰国子女をステータスとしているようだ。
世渡り上手というのは、ああいう人間のことを言うのだろう。
「英語とか話せたりするのっ?」
「あ、ホントじゃん!」
溜息をグッと飲み込む。
今までもよく、英語で喋ってみてよと言われることはあった。
聞いてどうするのかと思う。
というかそんな風に振られても、何を話していいのか分からない。
人の好奇心とは罪なものだ。
なんだか無性に走りたかった。
「あ、そうだ」
唐突に柴崎が声を上げる。
3人の視線は、自然と彼の方を向いた。
「そういえば、俺たち先生に呼ばれてたんだ」
「え?」
状況を理解する前に手首を掴まれ、引っ張り上げられた。
無防備だった雛はあっさり立たされ、そのまま手を引かれていく。
「じゃ、そういうことだから悪りぃなー」
「ん、じゃねー」
笑顔で手を振っていた柴崎は、教室から出るとこちらを見てニヤリと笑った。
やっと柴崎の行動の意味が分かり、雛は呆れ顔を浮かべる。
「さっきの、嘘だよな」
「あは、正解ー」
「なんでこんなこと?」
一瞬、柴崎の双眸が細められる。
いつもの無邪気な様子とは違う雰囲気に目を見張るが、すぐに前を向いてしまったのでチラリとしか見えなかった。
「あぁいう絡み、嫌いなんだろ?」
「えっ」
「誰にだって、触れられたくない話題はあるもんだよな」
ドクンと、心臓が跳ねる。
触れられたくないもの。
ずっと、気付かないふりをし続けて来た。
きっと触れてしまったら、後戻りはできないから。
柴崎にも、あるのだろうか。
触れられたくない、向き合うのが恐ろしい何かが。
「よし。ついでだし自販機にでも行くかっ」
こんな、晴れ空のような笑みを浮かべる彼に。
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