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「雛ぁ、受験勉強は捗ってる?なんならお兄ちゃんが見てあげるぞ?」
「お気になさらず、間に合ってます」
「その敬語やめてってば…、お兄ちゃん悲しー」
廊下を歩いていたら不幸なことに真斗と遭遇してしまった。
学校でもなりふり構わず絡んでくるから意識的に避けているのだが、今日は運が悪い。
いつまでも後ろをついてくる真斗に舌打ちをもらす。
ただでさえ双子として好奇の目を向けられるのに、加えてこの男は何かと目立つのだ。
今も周りからの視線にうんざりしていた。
「あーあ。結局高校では雛と同じクラスになれなかったなぁ」
「別にいいだろ、家では嫌でも一緒なんだから」
「そーゆー問題じゃないって。というか、家でだって全然話してくれないじゃん!」
「……」
「無視はやめて無視は!」
鬱陶しい兄に辟易しながら、ふと窓の外を見遣る。
今日は朝から雪が降っている。
季節はもう冬。
高校生活も、本格的に終わりが近づいて来ていた。
「…え」
──その時、ピタリと足が止まる。
「どうした?ん、あれ、柴崎じゃん。……って」
真斗が身を乗り出し、窓に顔を寄せる。
柴崎の他にもう1人、黒髪のポニーテール──倉木が立っていた。
「あれって告白?おー、流石モテるねぇ柴崎」
自分を棚にあげた真斗の発言も、雛の頭には入って来なかった。
顔よし性格よしの柴崎がモテることは必然なのだ。
今までだって、何組の誰が柴崎に告ったなんて話、よく聞いた。
それでも、胸がざわつく。
初めて実際にその現場を目にしたからなのか。
分からない。
ただ、胸がざわつく。
黒いものが胸の内に広がった。
この世界において正しいとされるものを見てしまったからだ。
どれだけ悩んでも、その想いが報われなくても、それは肯定される正しい感情だ。
自分には、その想いを抱くことすら許されない。
堂々と自分の想いを伝える彼女に、苛立ちを感じた。
「……最低だ」
「え?あ、おい雛」
声をかけられるが、それでも構わず歩き続ける。
早くその場から離れてしまいたかった。
見たくない、見たくない。
何も知りたくない。
最低だ。
自分勝手に彼女に八つ当たりをする自分が、何よりも苛ついた。
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