秘め事

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意識に靄がかかったようだった。 ここがどこなのかも分からない。 それでも不安や焦燥感はまるで湧いてこなかった。 唇に、柔らかいものが触れる。 気付けば仰向けになった自分に、誰かが覆い被さっていた。 不思議と驚きや恐怖はない。 寧ろ、自らが強く求め始める。 その首に腕を回し、肌を触れ合わせる。 お互い服を纏っていないのだと、この時認識した。 口付けは交わしたまま、次には相手の手が体に這わされる。 ゆっくりと輪郭を確かめるような動きに、熱い吐息が漏れた。 戸惑いも、焦りもない。 ただ、欲望だけが膨らんでいく。 欲しい。 もっと欲しい。 身も心も、満たして欲しい。 操られるように、自分の両足を開いていた。 口付けはより深くなり、互いに舌を絡め合い、時折唇を甘噛みする。 気付けばふたりは繋がっていた。 腰を打ち付けられ、甘い声を上げる。 交わしていた口付けが途切れ、相手の顔が離れた。 熱を帯びた双眸と視線が交わる。 目の前には、柴崎がいた。 『───雛』 「……」 目を開けると、馴染みのある天井が広がっていた。 携帯の目覚ましが鳴っている。 それが分かっているのに、雛は暫く動けずに放心していた。 やってしまった。 そう心の中で呟いた瞬間、絶望感が押し寄せてくる。 寝起きはいつも意識が朧げなのだが、先程まで見ていたもののおかげで一気に冴えてしまっていた。 上体を起こし、項垂れる。 くしゃりと髪に指を差し込んだ。 「まじ、最悪…」 本当に、最悪の気分だった。 この前の告白現場を目撃したことで、腹いせのつもりなのか。 夢で見た柴崎の熱を帯びた瞳が頭から離れない。 少し掠れた、俺の名を呼ぶ声も──。 「…っ」 彼を汚してしまった。 俺は汚れている。 普通じゃない。 俺のこれは、倉木のように肯定される美しいものなどでは決してない。
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