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ランニングを終え、僅かに乱れた息を整えながらストレッチをする。
陽が暮れかけている中家の扉を開くと、ちょうど階段から降りてきた人物と目があった。
舌打ちをこぼしそうになるのをグッと堪えて、靴を脱ぐ。
「雛ぁ、おかえり。遅いから兄ちゃん心配したぞ」
「まだ7時にもなってない」
「だって雛は可愛いから、誘拐されたら大変だ」
男相手に何を言っているのかと、頭上から聞こえる声にうんざりした。
無駄に猫撫で声なのが余計癪に触る。
兄の真斗は、兄と言っても同学年。
つまりは双子だ。
無愛想な自分とは違い、真斗は人の輪の中心にいるような人間で、高校では生徒会長を務めている。
真斗のことを「爽やか」だとか「王子様」だとか言ってはしゃぐ女子生徒もいるらしい。
顔は双子なだけあり似ていると思うが、纏う雰囲気も違えば性格も違う。
前髪を無造作に下ろしている雛に対し、横に流して額を見せている真斗は如何にもな好青年なのだ。
どこか中性的な見た目の雛だが、顔は似ているのに真斗は男らしく見えるから不思議だ。
そんな兄に憧れて、昔はいつも後ろをついて回っていた。
雛は気が弱く引っ込み思案だったので、リーダーシップのある兄が輝いて見えたのだ。
「昔は俺のこと『にぃに』って呼んで離れなかったのにさぁ」
「うるさい」
「昔みたいに呼んでくれよ、なぁ」
「少し黙ってもらえますか」
「敬語…!俺の雛が冷たいぃ」
嘘泣きを始める兄が本格的に鬱陶しくなり、無視して洗面所へと向かう。
ランニングでかいた汗を早く流したかった。
走った後の爽快感は、先程の兄のせいで帳消しである。
走るの、早朝にしようか…。
そんなことを割と真剣に考えながら、雛は服を脱ぎ捨てた。
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